- 時:1775年11月10日
- 場所:フィラデルフィア
1775年4月にアメリカ独立戦争が勃発すると、独立派の大陸会議(Continental Congress)は各地の民兵軍を統合する軍事組織である大陸軍(Continental Army)を6月14日に結成することを決議し、翌15日、ジョージ・ワシントンを最高司令官とする大陸軍が発足した。大陸軍はイギリス植民地軍の本拠地ボストンを包囲していたものの、大陸独立側には海軍力が存在しなかったためイギリス海軍は自由にボストンを中心に立て籠もるイギリス植民地軍への補給活動を続けていた。そのため、いくら大陸軍が陸上でイギリス軍を悩ませても、イギリス海軍の支援が続く限り戦局は大陸側に好転する見込みは薄かった。
そこで、イギリスの補給を妨害するためにジョージ・ワシントンは大陸会議に大陸軍の軍艦を建造するべきことを提言した。それに呼応して、植民地政府の一つであるロードアイランドの議会が1775年6月12日にロードアイランド海軍建設を議決し、アブラハム・ウィップルをスループ(小型軍艦)「ケティ」艦長ならびにロードアイランド海軍提督に任命した。そして、ロードアイランド議会は、それぞれの植民地政府がバラバラにではなくまとまった一つの海軍を建設すべき旨の決議をして、大陸会議に提出した。しかし、莫大な予算が必要な海軍建設に対して大陸会議の多くのメンバーは積極的ではなかった。
一方、海軍力が存在しない限り、たとえ陸上で優位を占めても独立の達成は困難と見ていたワシントンは、自費でスクーナー「ハンナ」を購入し艤装して1775年9月5日に大陸軍の軍艦として就役させた。10月10日にハンナは座礁してしまいそれを捕獲しにきたイギリス海軍軍艦と砲戦になった。陸からは民兵がイギリス艦を砲撃したため、捕獲は免れたが、ダメージを受けたハンナは退役することとなった。
この直後の10月13日、大陸会議は大陸海軍(Continental Navy)を設立することに決した。この時点では、軍艦も無ければ組織も存在しなかったが、ここに大陸海軍が発足した。(現在も10月13日はアメリカ海軍設立記念日とされている。)同時に、大陸会議は2隻の船を購入し武装を施して大陸海軍軍艦とする予算を承認した。最初の軍艦は11月4日に購入され、12月3日に就役したUSS「アルフレッド」であった。
イギリス海軍はじめ当時のヨーロッパ海軍軍艦には海兵隊員が乗艦しており、海軍には海兵隊あるいは海軍歩兵が設置されていた。そこで単に英国海軍に英国海兵隊が存在するという慣例に従って、大陸海軍を作ったからには大陸海兵隊(Continental Marines)を併設することになった。そして、1775年11月10日、大陸会議は「大陸海兵隊法」を決議して海兵隊を組織することにした。
1775年大陸海兵隊法(1775年11月10日)
大陸海兵隊は2個大隊から構成され、通常の大隊と同じく1名の大佐、2名の中佐、2名の少佐それに他の士官が配置されるとともに、通常の大隊と同数の兵員が置かれる。特に留意すべきは、隊内事務に専従する要員は定員に含まれず、現在進行中のイギリス本国と大陸植民地間の戦争にとり即戦力となりうる腕の良い船乗りや海事技術に秀でた人材を大隊員に採用すること。大陸会議によって解散されない
当初、海兵隊員はジョージ・ワシントンの大陸軍から引きぬいて2つの大隊を形成しようとしたが、イギリス軍はヘッシェン(ドイツ)傭兵部隊を投入して攻勢に出だしたため、ワシントンは陸軍から海兵隊に人数を割くことを嫌がり、海兵隊独自に募兵して発足させることになった。そこで、フィラデルフィアを中心に募兵を開始し、1775年11月28日、サムエル・ニコラス大尉が大陸海兵隊総司令官に任命されフィラデルフィアに兵舎を設置した。12月までに集まった海兵隊員はおよそ300名であり、5個中隊から構成される1個大隊、すなわち第一海兵大隊だけが誕生した。
以後、大陸海兵隊はニコラス大尉の指揮のもと軍艦に乗り込みカリブ海に遠征しナッソー襲撃(1776年3月 )で初陣を飾って以降、海軍艦艇からの上陸作戦や、陸軍との共同作戦、また単独での遠征などアメリカ独立戦争を通して小規模部隊ながらも活躍した。しかし、1783年に独立戦争が終結すると、翌年4月、財政難で軍隊の維持が困難であったアメリカ政府は大陸海軍と大陸海兵隊を解散してしまった。1790年8月27日、初代海兵隊総司令官ニコラス少佐が死去した。1794年3月27日、10年間の空白を経てアメリカ議会が「1794年海軍法」において6名の士官と310名の兵士からなる海兵隊をアメリカ海軍に設置することを決定した。ここに海兵隊は、アメリカ海兵隊(USMC)として再誕生した。ただし、現在も1775年11月10日の大陸海兵隊誕生がアメリカ海兵隊の誕生日とされており、初代アメリカ海兵隊総司令官(Commandant of USMC)はサミュエル・ニコラス少佐(任官当時は大尉)とされている。
また大陸会議が設置した大陸陸軍、大陸海軍そして大陸海兵隊といった軍事組織は、現役職業軍人ではないシビリアン指導者たちで構成された軍事委員会の管理下におかれ、このシビリアン・コントロールの伝統が現在まで続いている。
参考文献:
Marine Corps Association. 2002. USMC: A Complete History. Fairfield CT: Hugh Lauter Levin Associates, Inc.
〜添付図版等の公開準備中〜