海兵隊という単語
日本では海兵隊というとアメリカ海兵隊を意味することが多い。そして、沖縄の普天間基地移設問題やオスプレイの事故などの断片的情報とともにアメリカ海兵隊が話題に上ることが多いため、アメリカ海兵隊とはいかなる軍隊なのか?あまり知れ渡っているとはいえない。というより、ネガティブなバイアスがかかったイメージが主として浸透しているといっても過言ではない。
そもそも「海兵隊」という言葉(単語)自体の意味するところのものが正確に知られているとはいい難い。とりわけ我々日本人にとっては、ごくごく短い期間をのぞいて海兵隊という軍事組織が日本に存在したことがなかったため、「海兵隊」という言葉はその文字からだけではなかなかどのような軍隊なのか想像することはできない。
海兵隊とは「海」の「兵隊」ではなく「海兵(marine)」の「隊(corps)」という意味の軍事組織である。専門的な軍事知識のない人でも、海軍は駆逐艦や潜水艦といった軍艦を使って海で活動し、陸軍は武器を持った兵士や戦車や装甲車といった軍用車両を使用して陸上で活動し、空軍は戦闘機や爆撃機などの軍用機を使用して空で活動する軍隊であるといったように大雑把に理解することは可能である。
海兵隊???
ところがいったい「海兵」とは、いったい何なのだろうか?海という文字が入っているから海軍の一種なのだろうか?実際にアメリカ海兵隊は行政的には海軍長官の指揮下にあり、同じく海軍長官の指揮下にあるアメリカ海軍とともにアメリカ海軍省に所属する軍隊である。したがって、アメリカ海兵隊はアメリカ海軍と密接な関係を有しているが、アメリカ海兵隊とアメリカ海軍は並列の存在でアメリカ海軍がアメリカ海兵隊の上部機関というわけではない。
沖縄を中心に岩国航空基地や富士演習場などにも駐留しており、日本ではアメリカ海兵隊という名は知れわたってはいるものの実際には「何をしている」軍隊なのかはあまり知られてはいない。それにも関わらず、そのアメリカ海兵隊が日本に駐屯することが抑止力になるとか抑止力にはならないといった議論がなされている。「何をする」あるいは「何ができる」組織なのかを明確に知らずして、そのような議論が先行していることは無意味に近い議論が行われていることを意味している。
ただし、アメリカ海兵隊の母国であるアメリカにおいても、海兵隊がいかなる組織であり、何をしているのか、そして何ができるのか、に関してはそれほど正確に知られているとは言いがたい。もちろん、多くのアメリカ市民は「海兵隊はアメリカの先鋒部隊として出動し、アメリカ六軍(海軍・陸軍・空軍・海兵隊・宇宙軍・沿岸警備隊)の中でも最もタフな連中の集まりである」程度の一般的イメージは抱いている。しかし、海兵隊関係者や専門家でなければ、なかなかアメリカ海兵隊が「何をする」そして「何ができる」軍隊なのかを理解しているとは言いがたい。
アメリカ海兵隊を理解する方法
このようなアメリカ海兵隊の姿を理解するには、アメリカ海兵隊の行動哲学や意思決定理論といった抽象的な側面から理解を進める方法や、アメリカ海兵隊の現実の組織構造や装備体系といった軍事技術的側面から理解を進める方法があるが、200年以上のアメリカ海兵隊の歩みをたどって「何をしてきた軍隊なのか?」の概要を知らなければ、アメリカ海兵隊の全体像に迫ることは困難である。なぜならば、海兵隊の組織構造や任務は200年以上の歴史をとおして様々な変遷を続けているからである。
WEBサイト“征西府”では、現在のアメリカ海兵隊の機能を理解するためにぜひとも垣間見ておくことが有用であると思われるアメリカ海兵隊の歴史を、重要なケースを紹介することによって辿ってみる試みをなす。それぞれのケースは、時系列に従って配列されているが、それぞれ独立した戦争・戦闘・その他の作戦であり、どのケースからあくせすしてもその時々にアメリカ海兵隊はどのような作戦に従事していたのかが見て取れる。もちろん、本サイトで取り上げるケースは海兵隊が従事した各種作戦全体から見るとごく僅かなものである。ただし、時代毎に特徴のあるケースは極力掲載するようにしたため、アメリカ海兵隊とは「どのような軍隊なのか?」を感じ取る一助になりうるのではないかと期待するところである。
〜添付図版等の公開準備中〜