抑止力:主観的概念であるが国防当局には推定義務がある

〜添付図版等の公開準備中〜

「抑止する」「抑止力」「抑止効果」といった言葉は、日本の国防に話を絞るならば「外敵による日本に対する軍事力の行使を思いとどまらせること」「そのような軍事力」「そのような状態が生じていること」をそれぞれ意味している。しかしながら、「抑止している」「抑止力となっている」「抑止効果が発揮されている」と表現しても、それらはあくまで主観的な表現にすぎない。

たとえば、日本政府や在日アメリカ軍が「中国人民解放軍の対日軍事攻撃を抑止している」と表現しても、これは日米側が「抑止している」と考えているだけ、あるいは主張しているだけにすぎず、中国人民解放軍や中国共産党指導部が日米側の強力な軍事力による防御態勢に「恐れをなして」、あるいはそこまでいかなくとも「強く警戒して」、日本に対する軍事攻撃を差し控えているのかどうかは、中国人民解放軍首脳たちや中国共産党指導者たちから真意を聞き出さなければ確認できない。

ようするに、「抑止」とは彼我の認識に左右されている極めて主観的な概念であると言わざるを得ない。

たとえば「沖縄に駐留しているアメリカ海兵隊は、日本防衛にとって抑止力となっている」というのならば、日本政府首脳や日本の国防当局者たち、というよりは日本国民の大多数が「アメリカ海兵隊が沖縄を中心として日本に駐留していることによって、日本に対して何らかの軍事攻撃を加えようとする勢力が、日本攻撃の企てを中断あるいは放棄するに違いない」との確信を得ている状態になければならない。

日本に対して軍事攻撃を加えようと計画している勢力(以下<Z>)が、沖縄に駐留しているアメリカ海兵隊の存在によって対日攻撃の企てを断念するためには、以下のような理由が存在するであろうと想定することが可能性である。

(1)「対日軍事攻撃に即応して沖縄から出動してくるアメリカ海兵隊によって、対日攻撃軍が撃退される可能性が極めて高い」と<Z>が考える。

(2)「対日軍事攻撃に即応して沖縄から出動してくるアメリカ海兵隊との戦闘によって対日攻撃軍が大損害を被る可能性が極めて高く、たとえ対日攻撃作戦が成功したとしても、軍事作戦実施のコストパフォーマンスが悪すぎる」と<Z>が考える。

(3)「対日軍事作戦が成功した後に沖縄のアメリカ海兵隊を先鋒とするアメリカ軍あるいは日米連合軍による反撃が実施されて、対日軍事作戦によって手に入れた戦果を手放さなければならなくなってしまう可能性が高い」と<Z>が考える。

ただし、このように<Z>が日本攻撃を諦める理由は、あくまでも日本側そして米軍側の想定であって、実際に<Z>がそのように考えているかどうかは確実ではない。とはいっても、そのような<Z>の主観は、客観的に測定できる彼我の兵力や装備や配置それに戦略や軍事思想などの軍事力から“ある程度まで”は推測することができる。というよりは、そのような推測をなし、その推測に基づいて戦略を立案したり、作戦概念を調整したり、軍備を整えたりすることこそが国防当局に課せられた重大な責務の一つなのである。

本コラムの著者:“征西府”主幹 Centre for Navalist Studies 北村淳 Ph.D.

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