日本政府が尖閣諸島は日本固有の領土であると確信し国際社会に向かって宣言するのであるならばアメリカの支援を頼りにしたり、アメリカの虎の威を借る狐のように振る舞うのではなく、日本自身で「誰の目にも見える形」で何らかの防衛策を講じる必要がある。
かねてより“征西府”は(1)「誰の目にも見える形」での実効支配態勢を直ちに開始すること、(2)尖閣諸島への接近阻止態勢を可及的速やかに確立すること、が必要不可欠であると主張してきている。本コラム4/2ならびに4/3で記したように、現時点では「誰の目にも見える形」での実効支配態勢は尖閣諸島周辺海域に海上保安庁大型基地船を常時展開させる方策が効果的であると考えられる。
ただし、法執行船であり軍艦ではない大型基地船は、軍事攻撃には無力に近い。そのため実効支配態勢をより確実にし日本の医師を明示するためにも大型基地船だけでなく尖閣諸島ならびに周辺海域での軍事的優勢を確保できる態勢を固めなければならない。
本コラムでは、そのような態勢すなわち接近阻止態勢を固める方策の概要を論ずる。
接近阻止態勢
1980年代後半から中国は海洋軍事力の強化に邁進し始めた。21世紀に入ると中国海洋軍事力の建設は順調に進展し2010年以降には強化のスピードはますます加速するようになった。それとともに、最大の仮想敵国であるアメリカによる軍事的脅威に対抗するための軍事戦略を着々と構築した。
中国軍では積極防衛戦略、アメリカ軍では接近阻止領域拒否戦略(A2/AD戦略)と呼称されている中国の戦略は、アメリカによる対中軍事力行使という事態が発生する場合(ただしアメリカによる先制核攻撃は除く)には、アメリカ軍とその同盟軍は東シナ海や南シナ海(海上、上空、海中)を経て中国沿岸域に押し寄せることになるため、それらのアメリカ側勢力を中国沿岸域に接近させないように東シナ海や南シナ海で、できればフィリピン海で、撃退するという戦略である。
この戦略を達成するために、中国軍は中国に接近してくる敵の艦艇と航空機を撃破するための様々なミサイルと発射プラットフォーム(艦艇、航空機、地上移動式発射装置)の開発と生産に努力を傾注してきている。ちなみに現時点では中国軍が地上から艦船を攻撃する地対艦ミサイル戦力においては世界最強となっている。
この中国の実例のように我が方に侵攻してくる敵の艦船や航空機を各種ミサイルなどによって撃破し我が領域への接近を阻む態勢を“征西府”では接近阻止態勢と呼称している。
尖閣諸島への接近阻止戦略
接近阻止態勢を固める防衛策すなわち接近阻止戦略は、なにも中国軍の専売特許ではなく多くの島嶼から構成される日本に外敵を接近させないためにも、あるいは尖閣諸島のような狭小な島嶼の防衛にとっても有効な方策である。すなわち各種対艦ミサイルシステムと防空ミサイルシステムによってミサイルバリアを構築し、島嶼に侵攻を企てる艦艇と航空機の接近を阻止する態勢を固めるのである。
ただし尖閣諸島に「誰の目にも見える形」での実効支配態勢を確立したならば、そのように国内外に日本固有の領土であることを明示した以上、日本自身で有効と思われる防衛態勢、すなわち日本の軍事的優勢を維持し、外敵には軍事的優勢を握らせない態勢を構築しなければならない。尖閣諸島防衛にとって最も有効と思われる防衛態勢は接近阻止戦略である。
戦時において尖閣諸島に外敵の艦艇や船舶が接近するのを阻む場合、狭小でかつ補給線の安全確保が困難な尖閣諸島に地対艦ミサイル部隊を配備するのは愚策である。尖閣諸島周辺海域(上空も含む)への接近阻止用の地対艦ミサイル部隊は宮古島、伊良部島(下地島)、石垣島、西表島、与那国島に分散配備することになる。
地対艦ミサイル部隊の構成
地対艦ミサイル部隊といっても、敵からのミサイル攻撃や航空機による攻撃を撃破するための防空ミサイルシステムも併せ持つことになる。いずれのミサイルシステムも機動性のあるトレーラーや大型トラックなど数輛の車両に搭載された発射装置(TEL)、レーダー装置、射撃管制装置、電源装置などで構成されるため、多数の地下式や横穴式の防護施設に分散配備され、戦時には島内を移動して迎撃行動を取ることになる。また地対艦ミサイル部隊には、ミサイルシステムを破壊したり配備地域を混乱に陥れるために潜入を企てる敵の特殊部隊などを捕捉撃破するための少数精鋭の特殊部隊も組み込まれることになる。
接近阻止戦略の主軸となる地対艦ミサイルシステムならびに防空ミサイルシステムは敵領域を攻撃することはできず、外敵の艦艇や航空機が侵攻してきて初めて用いることになるため完全に自衛的な兵器ということになる。そのため接近阻止戦略は、「専守防衛」の奇妙な解釈に拘泥している人々にとっても即刻採用可能な防衛戦略ということができる。
加えて日本は、それらの自衛兵器を輸入に頼らず、自ら製造して調達することが可能である。米ソ冷戦期において、日本はソ連軍による北海道侵攻に備えて高性能地対艦ミサイルシステム、88式地対艦誘導弾、を生み出し、引き続きその改良型である12式地対艦誘導弾を作り出した。日本製地対艦ミサイルシステムの性能の高さは、アメリカ軍が主催する多国籍海軍演習(リムパック)などで各国海軍関係者に極めて高く評価されている。そして、さらに射程距離を伸ばした12式地対艦誘導弾能力向上型の量産にも取り掛かっている。
また、防空ミサイルシステムに関しては、ロシア軍や中国軍が装備しているロシア製S-400のような長射程対空ミサイルこそ自衛隊は手にしていないが、百発百中と言われる高性能を誇る中距離地対空ミサイルシステム、03式中距離地対空誘導弾、を国産している。
外交的意思表示と軍事的バックアップ
以上のように、日本の意思に反して尖閣諸島周辺海域に侵入を企てる戦闘艦艇や占領部隊を積載した艦船や補給戦隊などを攻撃し撃破するために十二分な数量のミサイルを保持した地対艦ミサイル部隊を配備することにより、日本の主権的領域を防衛する意思を鮮明にしておくことは、海保大型基地船を尖閣諸島周辺海域に展開させることにより尖閣諸島は日本固有の領土であることを「誰の目にも見える形で」明示することを軍事的に補強することになる。
軍事力の準備を伴わない外交的意思表示は、無視されてしまうのが国際社会の原状であるため、海保大型基地船という外交的意思表示と接近阻止態勢の維持という軍事的意思表示は密接不可分な尖閣諸島自主防衛策なのである。
〜添付図版等の公開準備中〜