尖閣諸島自主防衛策(3/4)大型基地船

日本政府が尖閣諸島は日本固有の領土であると確信し国際社会に向かって宣言するのであるならばアメリカの支援を頼りにしたり、アメリカの虎の威を借る狐のように振る舞うのではなく、日本自身で誰の目にも見える形で何らかの防衛策を講じる必要がある。

かねてより“征西府”は(1)誰の目にも見える形での実効支配態勢を直ちに開始すること、(2)尖閣諸島への接近阻止態勢を可及的速やかに確立すること、が必要不可欠であると主張してきている。

本コラムでは、日本が尖閣諸島を実効支配していることを「誰の目にも見える形」で示すにために、現時点において実行可能かつ有効性が高いと思われる、海上保安庁が運用する大型基地船を尖閣諸島周辺海域に常駐させる、という方策について論じる。

大型基地船を展開させるという方策は、海上保安庁が運用する「巡視基地船」を建造し、尖閣諸島周辺12海里内海域を低速で遊弋あるいは停留しつつ警戒監視活動を24時間365日にわたって継続するという策である。すなわち海上保安庁の海上移動基地を尖閣周辺海域に常駐させるというのである。

海上移動基地

海上移動基地のアイデアはかつての日本海軍も含め各国の海軍などで長らく用いられている。最も有名な海上移動基地の事例は航空母艦である。現在米海軍が運用している超大型原子力空母などは、戦闘攻撃機、早期警戒機、輸送機、対潜ヘリコプター、汎用ヘリコプターなどを通常は70機程度、戦時には90機ほど積載し、艦内にも軽整備施設を有する、まさに海上を移動する大型航空基地そのものである。

このほかにも海兵隊の前進展開基地として、海兵隊上陸部隊、戦闘攻撃機、攻撃ヘリコプター、オスプレイ、水陸両用車、戦車、戦術トラックなどを積載して、作戦目的地沖合に展開する強襲揚陸艦をはじめとする各種水陸両用艦も、海上移動基地のアイデアにより生み出された軍艦である。

近年アメリカ海軍をはじめいくつかの海軍では、伝統的な航空母艦や強襲揚陸艦に加えて、海岸線から見て水平線以遠の遙か沖合の比較的安全な海域に海兵隊の前進基地を設置するアイデアが誕生し、大型輸送艦などを改造した海上基地艦が登場した。いまだに、作戦概念や具体的戦術の研究開発中であるが、各種ヘリコプターや小型艇などを積載し、多数の陸上戦闘員が前進基地として使用できるため、米海兵隊だけでなく米陸軍も海上基地構想には興味を示している。

海上保安庁基地船の構造

海上保安庁基地船は、既存のタンカーや輸送船(6~7万トン)を改造して、ヘリコプター発着甲板、ヘリコプター整備施設、小型艇発着クレーンなどを設置し、基地船要員や地上任務要員などが長期にわたって勤務するための居住スペースを整備し、場合によっては病院船としても使用可能な本格的医療設備を備えた超大型巡視船、というのが“征西府”の私案である。

海上保安庁基地船の主たる任務は、尖閣諸島領有権問題が解決するまでの期間は、尖閣諸島周辺12海里内海域(すなわち日本領海内海域)に常駐し、中国海警局巡視船をはじめとする中国公船や中国軍の尖閣周辺海域での動きを警戒監視することにある。

このような基地船は24時間365日態勢で常時展開するため、メンテナンスや人員ローテテーションを考慮すると3隻は建造しなければならない。しかし、タンカーや大型輸送船を改造することにより生み出すために、大型軍艦や大型巡視船に比べると低コスト・短期日で誕生させられる。

超大型船である海上保安庁基地船は、日本領海に侵入してくる中国海警局巡視船に接近して進路を遮ったり、不審船を追尾したりすることはせず、できるだけ広範囲にわたって尖閣周辺海域と空域における艦船や航空機の航行状況などを把握分析する作業が主たる任務となる。したがって、海上保安庁基地船には海上監視レーダー、上空監視レーダー、それにソナーなどが装備されることになる。

それらの高性能センサーシステムによって収集されるデーターは、近海域の海上保安庁巡視船とだけでなく海上自衛隊軍艦、海上自衛隊ならびに航空自衛隊航空機、それに接近阻止戦力として宮古島や石垣島や久米島などで配置についている陸上自衛隊地対艦・防空ミサイル部隊ともリアルタイムで共有できるように、海上保安庁、海上自衛隊、航空自衛隊、陸上自衛隊の統合運用体制が構築されている必要がある。

また海上保安庁基地船は、日本領海内とはいえ、離島である尖閣諸島周辺海域での監視任務に単独であたる以上、万一にも中国巡視船や中国軍艦それに中国軍航空機などから攻撃された場合には自分自身で防御しなければならない。そのため、自衛用の武装を十二分に固めておく必要がある。幸い船体が巨大であるため、速射機関砲(2基)、近接防御火器システム(4基)、機銃(数基)、防空ミサイルシステム、対潜水艦用短魚雷システムなどの防御兵器を多数搭載することができる。

それらに加えて、周辺海洋を空から監視したり、魚釣島などに上陸して警戒活動を実施したり、あるいは魚釣島などに上陸を企てる不審者を取り締まったりするために数機のヘリコプターが積載される必要がある。海上自衛隊による使用実績があるうえ日本で製造しているSH-60K艦載ヘリコプターが最適と思われる。大型貨物船を改造する海上保安庁基地船にはヘリコプター発着用甲板、ヘリコプター整備格納施設、燃料貯蔵施設などを設置するスペースは十分にあるため、運用には何ら問題は生じない。

このように、海上保安庁基地船は法執行船としてはかなりの重武装となるが、基本的には法執行船である海上保安庁や中国海警局やアメリカ沿岸警備隊の潜艇が非武装あるいは軽武装である必要はない。たとえば、海軍フリゲートをそのまま海軍から除籍して沿岸警備隊の運用下に入れ、巡視船塗色に塗り直せばもはや軍艦ではなく巡視船となるのだ。

海上保安庁基地船は大型輸送船を改造して生み出される異様な重武装巡視船である。そして、海上保安庁海難救助隊、海上交通管制隊、海洋気象観測隊、特殊警備隊、水産庁漁業監視隊、沖縄県警機動隊などの非戦闘員である海上保安官、水産庁漁業監視員、それに警察官など多数の法執行関係職員たちが乗り込むことになる。しかしながら、国際法的に戦闘員たる自衛隊員は乗り込んでおらず、あくまでも純然たる法執行船なのである。

海上保安庁基地船 vs. 中国海警局巡視船

尖閣諸島周辺の日本領海内に超大型の海上保安庁基地船が常時姿を見せていることによって、日本による実効支配態勢を、ある程度ながらも、内外に「目に見える形」で提示することになる。

当然ながら尖閣諸島を中国固有の領土であると主張している中国側にとっては海上保安庁の巡視船が常時停留している海域は中国領海ということになるため、中国海警局巡視船による取り締まりの対象ということになる。中国当局としては、日本の大型公船が堂々と尖閣諸島領海内に姿を見せている状況を放置しておいては、中国の実効支配態勢が大きく後退してしまうため、何としてでも海上保安庁基地船を排除しなければ共産党政府に対する国内での批判が高まりかねない。

中国の「海警法」において中国海警局は他国の軍艦や巡視船が中国の主権を侵害しており、退去警告などに従わない場合は、武器などの使用を含めてあらゆる実力行使を行って排除することになると規定している。中国海警局巡視船が実力行使をする場合、機関砲などの積載兵器を使用するよりは、体当たり戦法によるのが定石である。なぜならば、体当たりの場合は“事故”との強弁も成り立つが、機関砲や機銃を発射した場合は明らかに武力攻撃となってしまうからである。

中国海警局だけでなく、体当たり戦法は各国巡視船や軍艦でも比較的多用されている。自らの舷側(船の側面)を相手の舷側に斜めに衝突させる戦法と、自らの船首を相手の船体に直角に近い角度で衝突させて場合によっては乗り上げて沈めてしまうという極めて乱暴な戦法がある。

しかしながら、7万トンもの史上最大(建造されれば)の巡視船である海上保安庁基地船に対して、世界最大級を誇る巡視船である15000トンの中国海警局「海警2901」がどのような方法で体当たりを仕掛けても、致命的なダメージを与えることはできない。

中国巡視船が明らかに危害を加える勢いで体当たりを仕掛けるために急接近してきた場合には、海上保安庁基地船は中国海警局巡視船の動きを撮影しつつ、自衛のための武器使用を実施することになる。明確な証拠を確保した上での反撃であるため、機関砲を発射しようが魚雷を発射しようが自衛行為は証明されることになる。

中国海警局巡視船は体当たり戦法が効果的ではないとしても、海上保安庁基地船を破壊する目的で機関砲などを海保基地船に連射した場合には、中国公船による日本公船に対する軍事的先制攻撃ということになる。このようなシナリオは「剥き出しの軍事衝突は極力避けつつ着々と軍事的優勢を手に収めていく」という中国の軍事力行使の大原則に反することになり、現時点では考えにくい。

中国側の対抗策

おそらく中国側は下記のような戦術で海上保安庁基地船に対抗することになるであろう。

すなわち中国海警局も超大型基地船を建造して尖閣諸島周辺の“中国の領海内”に常駐させるであろう。現在、世界最速で多数の軍艦を生み出すとともに世界最大の商船建造国でもある中国にとって、タンカーや大型貨物船をベースにした超大型海警局海洋基地船を短時間で生み出すことなどは至って容易だ。

中国海警局も海上保安庁同様に尖閣諸島周辺12海里内海域に超大型巡視船を常時停留させておけば、日本と中国の“見た目”における実効支配態勢は五分五分となってしまう。そして互いに相手に危害を加えることができない日中双方の基地船がにらみ合うという新たな状態が継続していくことになるのだ。

したがって、中国側より少しでも実効支配態勢を維持している状態を明示するためにも、海上保安庁基地船の常駐と、魚釣島海洋気象測候所の設置を併用する必要があるのである。

接近阻止態勢確立が急務

ただし、これまでの南シナ海における中国の動きから判断するならば、中国側は海警局基地船への補給活動のために頻繁に巡視船を尖閣周辺に送り込むことは間違いない。また日本側が大型巡視船を“侵入”させているために中国公船や中国漁船が危険にさらされている“中国領海”での中国海警局の活動を保護する必要があると称して、中国海軍哨戒機や軍艦を海上保安庁基地船に接近させる可能性も高い。

このような中国側の動きを牽制するために、アメリカ政府高官たちに「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲内である」と公言させても、中国側には何の牽制効果も生じない。中国軍当局は、中国が先制的に大規模対日軍事攻撃でも実施しない限りは尖閣領有権紛争程度の第三国間のトラブルでアメリカ政府が本格的軍事的支援を実施しないことは百も承知だ。

日本政府としては、海保基地船を展開させることによって生じる新たな日中対峙という状態を、本サイト“征西府”の「尖閣諸島自主防衛策(4/4)」で論ずる接近阻止態勢の確立のための時間稼ぎとして利用する必要がある。

すなわち、南西諸島ライン上の数カ所(理想的には、与那国島、石垣島、宮古島、久米島、沖縄本島、奄美大島、それに薩摩半島)に十二分な数のミサイルを保有した陸上自衛隊地対艦ミサイル部隊と防空ミサイル部隊を配備し、下地島空港を自衛隊航空基地に転換するのをはじめとして、できるだけ多くの南西諸島の空港で自衛隊機が使用できる態勢を確立するのである。

日本国防当局にとって、そのような部隊の展開や航空拠点の設置以上の難題は、陸・海・空各自衛隊ならびに防衛省と海上保安庁が統合運用が実現できるのかどうか、あるいは実現する気があるのかどうか、という点である。なぜならば、上記の地対艦ミサイル部隊や防空ミサイル部隊と、それらにとってセンサーの役割を果たす海上自衛隊艦艇や哨戒機、航空自衛隊早期警戒機、それに基地船を含んだ海上保安庁巡視船艇は密接に連携されていることが必要条件となるからだ。

〜添付図版等の追加公開準備中〜

    “征西府” 北村淳 Ph.D.

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