尖閣諸島自主防衛策(2/4)魚釣島測候救難所

〜添付図版等の公開準備中〜

日本政府が尖閣諸島は日本固有の領土であると確信し国際社会に向かって宣言するのであるならばアメリカの支援を頼りにしたり、アメリカの虎の威を借る狐のように振る舞うのではなく、日本自身で誰の目にも見える形で何らかの防衛策を講じる必要がある。

かねてより“征西府”主幹は(1)「誰の目にも見える形」での実効支配態勢を直ちに開始すること、(2)尖閣諸島を含めた先島諸島そして南西諸島島嶼線での接近阻止態勢を可及的速やかに確立すること、が必要不可欠であると主張してきている。

これらのうち、日本が尖閣諸島を実効支配していることを「誰の目にも見える形」で示すには、以下の2つの方策が技術的にも予算的にも実行可能であった。
1-1 尖閣諸島最大の島である魚釣島に測候救難施設を設置する
1-2 海上保安庁が運用する大型基地船を尖閣諸島周辺海域に常駐させる

しかし、中国の海洋戦力の急速な充実ならびに中国が「海警法」を制定するなどより強硬な海洋進出政策を推し進めるという状況の変化に伴い、魚釣島に測候救難施設を設置するという方策は良策とは言えなくなってしまった。現時点で日本政府が早急に実施すべき「誰の目にも見える形」での実効支配策は、大型基地船を尖閣諸島周辺海域に常駐させる方策ということになる。

本コラムではかつては良策と考えることができた魚釣島に測候救難施設を設置する方策について論ずる。

魚釣島測候救難所

魚釣島測候救難所設置案とは、魚釣島西岬北側台地のカツオ節工場跡地付近にコンテナハウスによる気象観測施設と海難救助施設を設置するとともに、同島奈良原岳山頂付近に各種観測用高性能レーダーを伴った高性能コンパクト灯台を設置することによって、日本が尖閣諸島を実効支配している姿を「誰の目にも見える形」で明示するという方策である。

現在魚釣島には民間右翼団体が設置した小型簡易灯台が設置されているだけである。そこで、それより本格的ながらも専門組織にとっては容易に設置できる高性能コンパクト灯台を魚釣島の最高地点である奈良原岳山頂付近に設置するのである。この「奈良原岳灯台」には、気象観測用レーダーと小型高性能海洋監視レーダーそれに小型高性能上空監視レーダを併設することにより、尖閣諸島周辺海域と空域の気象データー、航空機や船舶に関する交通データーを常時把握することができるようになる。それと同時に、尖閣諸島周辺海域と空域の警戒監視も常時続けることが可能になるのだ。

モジュール化しコンパクト灯台と各種レーダー装置の設置そのものは極めて短時間で完了させることが可能である。ただし、奈良原岳の麓に設置する測候所施設と接続するケーブル類を埋設するには時間を要するものの、仮ケーブル類を敷設してともかく運用を開始してしまうには陸上自衛隊工兵部隊と特殊部隊が実施することにより一日とかからない。

そして海上自衛隊水陸両用戦隊と陸上自衛隊水陸両用部隊によって揚陸されるコンテナハウスを利用した気象観測施設と海難救助施設それに発電機や浄水期や浄化槽設備などの生活維持施設ならびに簡易ヘリパッド(ヘリコプター発着施設)と小型救難艇用簡易着岸設備を魚釣島西岬北側台地のカツオ節工場跡地付近に自衛隊工兵部隊と民間専門業者によって設置するのも一昼夜で可能である。

それらの施設には、気象庁職員、海上保安庁職員、水産庁職員、警察職員、それにできれば民間人専門家を加えて構成する気象観測チーム、海難救助チーム、海洋監視チームからなる魚釣島測候救難所隊員が常駐し尖閣諸島周辺での交通や漁業の安全を確保することになるのである。

何もせずに20年

このようなアイデアは以前より機会ある事に主張していたのであるが、複数のアメリカ海軍関係者たちによると、すでに20年近くも以前にアメリカ海軍側が日本側に対して「魚釣島に測候施設を設置し民間人観測要員や研究者などを常駐させて日本の領土であることを国際社会に向けて宣伝すべきである」といったような提案を繰り返していたということである。軍将校たちによる外交的には非公式ルートとはいえ、アメリカ側は日本側に対して「誰の目にも見えるような形」での実効支配態勢を確立しておくべきであると20年近く前に提言していたというわけだ。

もし日本国防当局や政府に本気で尖閣諸島を自らの手で守ろうという意思があったのならば、米海軍側からこのような提案があったのを好機として、魚釣島に測候所なり観測所なりを設置したであろう。万一、中国側が強硬な手段に訴えてきたとしても、アメリカ側が言い出している以上、アメリカによる軍事的支援が確実だったからだ。(それにその当時の中国海洋軍事力は、アメリカはもとより日本にも及ばなかった状態であった。)

もちろん尖閣諸島は日本の領土である以上、日中間の尖閣領域紛争はアメリカではなく日本が解決するのが当然である。したがってアメリカ海軍やアメリカ政府に言われるまでもなく、日本政府が自ら日本の実効支配を国際社会に「誰の目にも見える形」で提示する努力を積み重ねる必要があった。しかしながら、今日に至るまで20年近く日本政府はそのような努力を全くなしていない。そしてその間、中国海洋軍事力は飛躍的に強化を遂げてしまい、アメリカ海軍自身も中国海軍に対して劣勢に陥ることを認めざるを得ない状況に立ち至ってしまったのである。

中国に先手を打たれてしまった〜海警法の制定

このような状況下において、中国政府は日本が尖閣諸島に測候所を設置するような「目に見える形」での実効支配状態を誕生させる努力に対して、先手を打った形での宣言をつきつけたのである。すなわち中国政府はより強力に中国周辺海域支配体制を推し進める一環として「中華人民共和国海警法」(海警法)を制定したからである。

その海警法第二十条において、日本側が中国領(もちろん中国共産党政府がそのように認識しているという意味である)の島にコンテナハウスであろうが永久建造物であろうが測候所や灯台などを設置あるいは建築した場合、まずは中国海警局が撤去命令を発し、それに従わない場合には強制撤去する、と明確に宣言したのだ。

もちろん海警法は中国国内法であり、何も日本側が海警法に遵う必要はないのであるが、中国政府が海警法をすでに施行している以上、もし日本政府がポータブル灯台レーダー装置ならびにコンテナハウスを魚釣島に設置したならば、中国海警局はあらゆる手段を用いても、それらの魚釣島測候救難所を撤去し気象観測員や救難隊員を逮捕しなければ、海警局の責務が果たせないことになる。

ようするに中国は、日本が尖閣諸島に何らかの恒久的施設を設置する以前に、もしそのような施設が設置された場合は海警法における義務として中国当局はあらゆる手段を行使してそのような施設を撤去するとの姿勢を明示したのである。

したがって、日本による魚釣島測候救難所の設置は、100%中国海警局との物理的衝突が前提となり、日本側(まずは海上保安庁ということになるが)の実力行使状況に対応して海警局の“劣勢”を救援するとの口実で中国海軍が出動しても中国側にとっては自衛戦争との強弁が成り立ってしまう。もともと国際社会では尖閣諸島の情勢などは理解していないため、日本が“悪役”に仕立てられかねない。

このように、急激に中国の海洋軍事力が極めて強力になってしまった現在、かつては有効な方策であった魚釣島測候救難所を設置するというアイデアは軍事的な衝突を大前提とした下策となってしまったのである。そこで日本政府は、海上保安庁が運用する大型基地船を尖閣諸島周辺海域に常駐させ、日本が尖閣諸島を実効支配している状況を「誰の目にも見える形」で国際社会に明示する必要がある。

本コラムの著者:“征西府”主幹 Centre for Navalist Studies 北村淳 Ph.D.

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