尖閣諸島自主防衛策(1/4)「誰の目にも見える形」での実効支配

日本政府が尖閣諸島は日本固有の領土であると確信し国際社会に向かって宣言するのであるならばアメリカの支援を頼りにしたり、アメリカの虎の威を借る狐のように振る舞うのではなく、日本自身で誰の目にも見える形で何らかの防衛策を講じる必要がある。

かねてより“征西府”は(1)「誰の目にも見える形」での実効支配態勢を直ちに開始すること、(2)尖閣諸島への接近阻止態勢を可及的速やかに確立すること、が必要不可欠であると主張してきている。

これらのうち、日本が尖閣諸島を実効支配していることを「誰の目にも見える形」で示すには、以下の2つの方策が技術的にも予算的にも実行可能であった。
1-1 尖閣諸島最大の島である魚釣島に測候・救難施設を設置する
1-2 海上保安庁が運用する大型基地船を尖閣諸島周辺海域に常駐させる

しかし、中国の海洋戦力の急速な充実ならびに中国が「海警法」を制定するなどより強硬な海洋進出政策を推し進めるという状況の変化に伴い、魚釣島に測候救難施設を設置するという方策は良策とは言えなくなってしまった。現時点で日本政府が早急に実施すべき「誰の目にも見える形」での実効支配策は、大型基地船を尖閣諸島周辺海域に常駐させる方策ということになる。

本コラムでは「誰の目にも見える形」での実効支配態勢の重要性について論ずる。

「誰の目にも見える形」の重要性

尖閣諸島に限らず島嶼をめぐる国家間領域紛争では、紛争中の島嶼を「誰の目にも見える形」で自国の領土であることを国際社会にアピールしなければならない。そして、「誰の目にも見える形」を造り出したならば、その状態をあらゆる手段を行使して守り抜く決意と態勢を示すことも必要である。実際にそのようにしている側が、領域紛争中の島嶼の実質的な支配者となっているのが国際社会の現状である。

たとえば、韓国は竹島に灯台施設、ヘリポート、艦艇接岸設備そしてレーダー装置などを設置し警備隊員を配備しているが、いくら日本側が外交的に領有権を主張しても、韓国による竹島の実効支配状態を覆すことはできない状態が続いている。

同様に、南シナ海の南沙諸島の太平島には台湾が、同じくスプラトリー島にはベトナムが、パグアサ島にはフィリピンが、スワロー島にはマレーシアがそれぞれ灯台や測候所それに滑走路などの恒久施設を建設して実効支配を続けている。それらの島嶼に対しては上記の国々そして中国がいずれも領有権を主張している。しかしながら、「誰の目にも見える形」での実効支配態勢が維持されているそれらの島嶼に対しては、圧倒的な軍事力を有する中国といえども、軍事侵攻などは試みていない。

「誰の目にも見える形」の極端な事例:南沙諸島人工島

その中国は南沙諸島全域の領有権を主張しているものの、つい最近までは南沙諸島内のいかなる島嶼環礁にも恒久施設と呼べるような建造物などを設置してはいなかった。このように「誰の目にも見える形」での実効支配を欠いている状況を打開するために、中国は2014年頃から南沙諸島に人工島の建設を始めたのである。すなわち南沙諸島をめぐっての紛争諸国が設置している施設よりも強大な恒久的施設を南沙諸島のいくつかの環礁に設置することにより、領域紛争を有利に展開させる方針に転じたのだ。

それから数年と経たないうちに中国は7つの人工島( ファイアリークロス礁 、ジョンソンサウス礁、スービ礁、ガベン礁、ヒューズ礁、クアテロン礁、ミスチーフ礁)を誕生させ、現在ではそれらの人工島に灯台、レーダー施設、ヘリポートや港湾施設などの恒久施設を設置しただけでなく、三つの人工島(ファイアリークロス礁、スービ礁、ミスチーフ礁)には3000メートル級の滑走路までをも建設している。ようするに中国は、南沙諸島に「誰の目にも見える形」で7つの人工島軍事基地を生み出してしまったのである。

南沙諸島の領有権を主張している諸国の中でも中国は最大の海洋軍事力を擁しているだけではなく、南沙諸島に7つもの前進軍事拠点を手にしてしまったため、南沙諸島領有権紛争において圧倒的優位に立った。それだけではなく、これまでアメリカが握っていた南シナ海全域に及ぶ軍事的優勢をも中国の手中に収まることが確実なものになりつつあるといえよう。

とはいっても、そのように軍事的に優位に立っている中国といえども、台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシアが「誰の目にも見える形」で実効支配を続けている島嶼(太平島、スプラトリー島、パグアサ島、スワロー島)に対して直接的な軍事力の行使に踏み切ってはいない。

「誰の目にも見える形」であるがゆえに軍事攻撃しにくい

いくら小さな島嶼に対してとはいえ直接軍事力を行使する場合には、小規模な限定的局地戦とはいえ国家間戦争(ただし中国共産党政府の見解によれば台湾との軍事衝突は国家間戦争ではないということになるのであるが)を前提にする必要がある。漢民族が主導している現在の中国の軍事思想にも「戦わずして勝つ」という「孫子」以来の鉄則が脈々と息づいているため、当初より国家間戦争を大前提にした軍事力の用い方は中国にとっては下の下策なのである。

もっとも中国自身も「誰の目にも見える形」で南沙諸島の7つの人工島の実効支配を開始しているため、中国にそれらの人工島基地群から手を退かせるには、領有権を主張する国々は中国との戦争を覚悟しなければならないことになってしまった。しかしながら、南沙諸島を巡って領有権紛争中の国々に中国との戦争に踏み切れる国は存在しない。

また、これまで半世紀以上にわたって南シナ海の軍事的覇権を手にしてきたアメリカが、その覇権を引き続き維持するために中国に人工島を放棄させるには、中国との軍事対決に打ち勝つ以外には方法がないことは確実であり、いくら好戦的軍事国家であるアメリカといえども現時点で第三次世界大戦突入を覚悟して中国に全面戦争を仕掛けるほど愚かではない。

ようするに、軍事基地まで設置した中国の南沙諸島人工島の場合はもちろんのこと、恒久建造物を設置し警備要員を配置している竹島(韓国)、建造物に加えて滑走路も設置している太平島(台湾)、スプラトリー島(ベトナム)、パグアサ島(フィリピン)、スワロー島(マレーシア)といった「誰の目にも見える形」で実効支配態勢を維持すると、そのような原状を白紙に戻させることは、直接的に軍事力を行使して奪取あるいは奪還してしまう必要があるため、実際には極めてハードルが高くなっているというのが国際社会の現実だ。

上記のような理由によって、中国が尖閣諸島に「誰の目にも見える形」での実効支配態勢を開始してしまう以前に日本が尖閣諸島で「誰の目にも見える形」での実効支配態勢を実施しなければならないのである。

〜添付図版等の公開準備中〜

    “征西府” 北村淳 Ph.D.

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