尖閣諸島とアメリカの日本防衛義務!?

「尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象である」
これは日本で政権が交代したりアメリカで新政権が発足した際に、日本の首相をはじめとする政府首脳たちが、アメリカ大統領やアメリカ政府高官たちに口にしてもらう儀礼的言葉である。

バイデン大統領は、大統領就任前に菅首相に対してこのような趣旨の言葉を述べ、大統領就任後には菅首相に対して、ならびに岸田首相に対して、この種の儀礼的言葉を公言した。 それ以前にも、オバマ政権下ではクリントン国務長官、パネッタ国防長官、ヘーゲル国防長官、ケリー国務長官、そしてオバマ大統領自身が安倍首相に対して、そしてトランプ政権下ではティラーソン国務長官、マティス国防長官、そしてトランプ大統領自身が安倍首相に対してそれぞれ上記の趣旨の定型的言葉を繰り返している。

この種の言葉が米国首脳部から発せられると、日本政府そして日本の主要メディアは、「アメリカによる日本の“防衛義務”を定めた日米安保条約第5条が、尖閣諸島に適用されることをアメリカ政府が日本政府に対して確認した」といった趣旨の報道をするのが通例となってえいる。そうすることによって「尖閣諸島において中国が何らかの形で武力を行使した場合には、アメリカ軍が出動して中国軍を撃退し日本を救援してくれる」といったニュアンスを国民に流布させようとしているのだ。

このような一連の流れは、中国海洋戦力が自衛隊はもとよりアメリカ海洋戦力をも圧倒しつつある状況となりつつあるのに比例するように日本の防衛を日米同盟に頼り切る姿勢を強化した安倍政権以降、外交儀礼の一種として日米両政府間に定着してしまっている。

しかしながら、アメリカ側が表明している「日米安保条約第五条に基づき日本の防衛にコミットメントする」という表現を「アメリカが防衛義務を果たす」と手前勝手に解釈して、あたかも尖閣有事に際してアメリカの日本救援軍が姿を見せることが保証されているかの如き表現を日本国民に向かって発信し続けるのは、日本政府自身が日本の領土であると主張している尖閣諸島を自らの手で護るための戦略立案、予算投入、そして人員展開などの責任を放棄している怠慢を覆い隠すための手段とみなさざるを得ない。

さらに悪いことには、批判精神を失い軍事的素養も欠落している日本の主要メディアの多くは、「日米安保条約が保証しているアメリカの防衛義務」なるプロパガンダを、日本政府の発表にしたがってお題目のように繰り返すのみである。

アメリカ側が口にしている「条約上のコミットメントを果たす」という表現は、日本政府や日本の主要メディアが喧伝している「条約上の義務を果たす」すなわち「日本に米軍部隊を派遣して日本を攻撃する外敵を駆逐する」という意味と合致していると考えるには無理がある。

アメリカ側の「条約上のコミットメントを果たす」とは、「日米安保条約が存在しているからには、国際法的に何らかの支援措置を講じる必要があるため、いかなる支援措置が実施可能なのか検討を開始して、可能な措置を発動する」という意味なのである。

そもそも、日本政府は自ら尖閣諸島は日本固有の領土であるという事実を「誰の目にも見える形で」示す(本サイトの別コラムで論ずるように、かねてより“征西府”は(1)尖閣諸島魚釣島に「魚釣島測候所」を設置する案、(2)尖閣諸島沿岸海域に海上保安庁「巡視基地船」を常駐させる案、を提言している)という尖閣諸島防衛努力をなそうともせずに、ただアメリカ政府高官たちに「尖閣は安保条約の適用範囲内」などという儀礼的言葉を表明してもらい胸をなでおろしているだけでは、まさに自国の国防を同盟国とはいえ他国に任せようとしている姿勢そのものであり「国の誇り」というものを忘れてしまっているとしか思えない。

残念ながら日本の主要メディアからは、自主防衛の気概を失いアメリカに縋り付こうとしている情けない日本政府に対して、「それでも独立国家の政府と言えるのか」といった批判は聞こえてこない。日本政府や日本の主要メディアには「国家の誇り」という意識が欠落してしまっているようである。

〜添付図版等の公開準備中〜

本コラムの著者:“征西府”主幹 Centre for Navalist Studies 北村淳 Ph.D.

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