先週金曜日(2024年12月27日)上海の滬東中華造船所で新型強襲揚陸艦「四川」が進水した。076型強襲揚陸艦「四川」は、中国海軍がこれまで4隻(うち3隻が就役済み)手にしている075型強襲揚陸艦を進化させたもので、全通飛行甲板には電磁式カタパルトが設置されている世界初の強襲揚陸艦である。
アメリカ海軍当局を含むアメリカ側の分析では、中国の軍艦建造能力はアメリカのそれを遥かに凌駕しており、毎年誕生させている軍関係艦船(軍艦と補助艦船)の数量においても中国はアメリカの4〜5倍というスピードを保っている。
ちなみに航空母艦ならびに強襲揚陸艦という全通飛行甲板を有する大型艦だけを比較すると、中国が国産初の航空母艦、002型空母「山東」を起工したのが2013年11月、進水が2017年4月、そして2019年12月に就役している。引き続き2016年には003型空母「福建」を起工し2022年6月には進水、まもなく就役する予定となっている。
この時期(2013年から2024年末)にアメリカ海軍では、すでに2009年に起工されていた空母「ジェラルト・R・フォード」が2017年7月に就役し、2015年8月には空母「ジョン・F・ケネディ」が起工し2019年10月には進水したものの、その後技術的問題が山積したため就役は遅延に遅延を重ねている状態が続いている。
強襲揚陸艦に目を移すと、中国海軍初の075型強襲揚陸艦「海南」は2017~2018年にかけて起工したと考えられており、2019年9月には進水し2021年4月に就役、075型2番艦「広西」は2020年4月に進水し2021年12月に就役、同3番艦「安徽」は2021年1月に進水し2022年9月に就役、そして075型強襲揚陸艦4番艦「江西」は2023年12月に進水して現在海上公試中である。そして、上記のように、新鋭076型強襲揚陸艦「四川」が2024年12月に進水したのである。ようするに2019年から5年のうちに5隻の強襲揚陸艦を中国海軍は浸水させているのである。
一方アメリカ海軍では、2019年から2024年末までの時期に就役した強襲揚陸艦は2014年6月に起工され2017年5月に就役したアメリカ級強襲揚陸艦「トリポリ」だけであり、2019年3月に起工された同級「ブーゲンビル」はようやく2023年9月に進水したものの未だに就役していない。このように中国が強襲揚陸艦を5隻進水させた同時期にアメリカ海軍では2隻を進水させたが、2020年にはワスプ級強襲揚陸艦「ボノム・リシャール」が大火災に見舞われ結局廃艦となっている。
アメリカ海軍が数量的に中国海軍に追い込まれているだけではなく、かつてはアメリカ海軍だけが開発に成功したと思われていた全通飛行甲板の電磁式カタパルトを中国海軍が空母「福建」と076型強襲揚陸艦に装着したため、海軍航空戦力分野においても技術的にも中国海軍による猛烈な追い込みがなされていることを物語っている。
ちなみに、電磁式カタパルトが装着されている軍艦で現在運用中のものは、アメリカ海軍の空母「ジェラルト・R・フォード」だけであり、おなじく「ジョン・F・ケネディ」にも電磁カタパルトが装着されているものの上記のように未だに就役していない。そして、中国海軍も空母「福建」と強襲揚陸艦「四川」に電磁カタパルトを装着し両艦とも海上公試に入ったわけであるから電磁式カタパルト装着艦ではアメリカと中国は互角ということになる。
ただし、076型「四川」に装着されている電磁式カタパルトは「ジェラルト・R・フォード」や「福建」のものより長大であるため、戦闘機を始めとする重量がある固定翼四季航空機のは感のみならず、大量の無人航空機を発艦させるという新機軸の海軍航空戦術に使用する目論見を有しており、大型空母よりも多様性のある海軍航空機の母艦となる可能性が高い。
それに加えて、アメリカの造艦能力と中国の造艦能力の現状を鑑みるならば、少なくとも見通せる数年先までは確実に中国の建艦スピードがアメリカを圧倒することは確実である。おそらく中国海軍は、2030年までに少なくとも電磁式カタパルトを装着した強襲揚陸艦4隻を就役させるであろう。
このような理由によって、中国海軍が進水させた新鋭強襲揚陸艦「四川」に対しては、アメリカ海軍内外の戦略家たちは神経をピリピリさせているのである。