出動できなくなるアメリカ海兵隊〜海軍水陸両用艦の悲惨な現状 [2024/12/10]

アメリカ会計検査院(GAO:軍隊を含む政府機関の諸活動を監査する役目も果たすアメリカ連邦議会附属機関)は、このほど『水陸両用戦艦隊:海軍は海兵隊のために艦船をより確実に利用できるよう、重要な取り組みを完了する必要がある』という報告書を公刊した。

この報告書では、アメリカ海軍の水陸両用戦に用いる艦艇のメンテナンスや修理状況が極めて劣悪なため、アメリカ海兵隊が出動する際に必要となる強襲揚陸艦、輸送揚陸艦などの半数の船体が使用に耐えうる状態に保たれてはいないことに、強い警鐘が鳴らされている。

アメリカ級強襲揚陸艦( 写真:米海軍 )比較的新しい軍艦のため2隻とも合格

アメリカ軍には陸軍と海兵隊の二種類の陸上戦闘部隊が存在してきた。なぜ陸軍の他に海兵隊という戦闘部隊が維持されているのかというと、海兵隊には航空機や戦闘車両などの装備とともに海軍艦艇に乗り込み、アメリカにとっての国家緊急事態に際して先鋒展開部隊として戦地や災害地に派遣される役割が与えられているからである。そのため、海兵隊は海軍とともに海軍省の管轄下にあり、海軍水陸両用戦隊と密接な行動を取っているのである。

サン・アントニオ級輸送揚陸艦(写真:米海軍)船体状況は良好で13
隻のうち11隻が合格

海兵隊を緊急展開地沖まで急送するための海軍艦艇は水陸両用艦艇と呼ばれており、海兵隊上陸部隊が陸地に接近上陸するためのヘリコプターや揚陸艇それに水陸両用車両などを積載し発着させる機能を備えた強襲揚陸艦と、強襲揚陸艦に随伴して海兵隊員と各種資機材を運搬する輸送揚陸艦から構成されている。

ワスプ級強襲揚陸艦( 写真:米海軍 )7隻のうち2隻が合格

今回のGAOの報告書では、海軍が運用中の強襲揚陸艦9隻のうち5隻は船体状況が劣悪な状態にあり、輸送揚陸艦23隻のうち11隻が船体状況が劣悪な状態にあると評価された。このような惨状はアメリカ海軍艦艇の修理やメンテナンスに携わる海軍自身の造船所やアメリカ国内民間造船所の作業能力が極めて低下してしまったため上記揚陸艦に限らずあらゆる軍艦の修理やメンテナンスが大幅に滞ってしまいバックログも膨大な数に上ってしまっていることに起因している。

ホイッドビー・アイランド級輸送揚陸艦(写真:米海軍)9隻のうち1隻のみが合格

船体状況が合格水準にある艦船といえども作戦行動に備えてのメンテナンスや、作戦行動から帰還してからの修理作業が必要であることは言うまでもない。したがって、作戦行動に安心して送り出せる強襲揚陸艦が4隻と輸送揚陸艦を12隻保有しているといっても、それらすべてが出動可能というわけではない。ここで再び、海軍艦艇全体の修理メンテナンスの大幅な遅れというハードルに突き当たってしまう。

このように、米海軍の水陸両用戦艦隊の出動準備体制が極めて劣悪な状態にあるため、いくら海兵隊が十二分な訓練を終えて出動態勢を維持していても、出撃するために乗り込む水陸両用艦の準備がなされていないため、出動できかねる状況に陥ってしまっているのである。

海兵隊にとって悪いことには、短期日で海軍造船施設や米国内民間造船所のメンテナンス修理能力を高めることは不可能であり、メンテナンスや修理を待つ米軍艦のバックログは増加こそすれ減少する見込みは厳しい状況にあるということだ。

このような惨状を少しでも緩和するための藁をも縋る策として、日本や韓国の造船所で米海軍関係艦船の修理やメンテナンスを実施するという動きがあるし、すでに日本では極めて少数ながらも実施されている。しかし、アメリカ第一主義を掲げるトランプ政権は、「アメリカの軍艦はアメリカ自身の手で」という感情的方針を打ち出しかねず、行き過ぎたアメリカ第一主義が米海軍力の再興を妨げかねないという皮肉なジレンマも生じかねない。

    “征西府” 北村淳 Ph.D.

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