トランプ政権苦肉の策:船が造れなくなり苦境に陥っているアメリカ海軍(3A/3)

アメリカが中国を軍事的に抑え込むには、中国海軍を圧倒する海軍力が必要不可欠であるが、現在のアメリカ海軍にはそのような戦力はない。そして、トランプ大統領が海軍力強化を叫んでいても、アメリカの造船能力は中国と比較すると消滅状態に近いという惨状であり、とても速やかに海軍力を再建することは不可能な状態である。そのためアメリカ海軍関係者たちの間では、本コラムで指摘したように、日本と韓国をはじめEU諸国などの同盟国の造船能力を活用して、アメリカ自身の造船能力を再興させつつ、アメリカ海軍力増強を推し進めるための4つの方策(投資呼び込み策、MRO策、造船策、造艦策)が浮上している。今回は、投資呼び込み策と日本の関係について考察してみることにする。

投資呼び込み策:第一の策は、造船先進国であるとともにアメリカの属国的な同盟国である韓国と日本の造船業界を活用する方策である。高額関税を減額させる一つの方策として韓国や日本の造船業界にアメリカ造船業界への投資をさせて技術協力や共同経営などのチャンネルを構築し、造船先進国のノウハウを取り込んでアメリカ造船力の再建を加速させるというのが韓国や日本の造船能力を利用しゆおという方策。

アメリカ国内には、現在アメリカ海軍フリゲートを建造しているイタリアの造船メーカーや、以前アメリカ海軍沿海域戦闘艦を建造したオーストラリアの造船メーカー、そしてアメリカ海軍艦艇のメンテナンスや修理作業に携わっているイギリスの造船メーカーなどがアメリカ支社を設置しているが、アメリカ造船能力の再興を図るには、ヨーロッパ諸国の造船メーカーに加えて、世界第二の造船大国である韓国と、第三の造船大国である日本の、大手先進メーカーによるアメリカ進出や、アメリカ造船メーカーとの技術提携などが必要である。

軍艦以外の造船も含めての軍需産業を国家重要基幹産業に据えて韓国製武器兵器の輸出ならびに韓国軍需企業の海外進出を政府・軍・企業が一体となって推し進めている韓国(ハンファ)は、すでにアメリカ屈指の(といっても内実は施設の老朽化が進み技術力も貧弱な状態に陥っていたのであるが)フィリー造船所を買収しアメリカ東海岸に造船拠点を確保している。

アメリカ海軍そしてトランプ政権は、韓国(ハンファやヒュンダイ)の資本と技術力が投入され生産効率が向上すると見込まれる(ハンファは想定以上に莫大な投資が必要となってしまっている状況である)ハンファのフィリー造船所に、軍に関係する貨物船やタンカーといった商船だけでなく、さらなる投資をして軍艦の建造も期待しているようである。

韓国側としても、アメリカ国内に韓国企業がコントロールする造船所でアメリカの軍艦を建造することになれば、米韓軍事同盟が強固になるとともに同盟関係における韓国の地位が完全な従属よりも若干ながらも対等的関係に上昇することになる。したがって韓国勢は、たとえフィリー造船所を始めとするアメリカ国内の造船所に対する当面の期間は経済的利益は限定的であっても政治的軍事的は利益は十二分に確保可能なため、アメリカ国内造船所への投資(買収も含めて)活動を積極的に推し進めるものと思われる。

一方日本では、日本政府そして防衛当局が、日本の防衛は海洋国家としての防衛方針を確立し維持しなければならないという認識に欠けているため、民間造船業を積極的に保護し戦略的に活性化させようという動きが見られない。アメリカ海軍に関連する事業として日本の造船メーカーがアメリカへの投資や協力体制の構築を進めるには、日本政府ならびに防衛省・海上自衛隊の幅広い支援と周辺工作が必要不可欠である以上、現時点において、日本の造船メーカーが、アメリカ海軍が期待する投資呼び込み策に応じる余地はない。

    “征西府” 北村淳 Ph.D.

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