中国による海洋侵出戦略の進展とそれを支える中国海洋戦力の飛躍的増強に対して、米軍内外の対中戦略家たちの多くが、とりわけ米中軍事衝突が勃発した場合に緒戦で中国軍と戦闘を交えることになる米海軍や米空軍に関係する対中専門家たちの多くが台湾防衛のための作戦や、日本の自衛隊を引き込む政戦略、それに(日本がアメリカ側に立った場合)中国軍による猛攻撃が日本の軍事施設や港湾それに飛行場や各種戦略目標の防衛策などには盛んに言及ている。
しかしながら、米中開戦ともなれば中国軍は前方基地(日本や韓国やフィリピン領内それにグアムの米軍基地や関連施設それに自衛隊や韓国軍の施設)や前方展開艦隊(米艦艇、海上自衛隊艦艇、韓国艦艇)を攻撃するだけではなく、米軍にとっての後方兵站基地(ハワイやアメリカ西海岸の米軍基地や関連施設)や増援部隊に大打撃を与えようとすることは必至である。しかしながらハワイやアメリカ西海岸に対する中国軍による接近攻撃に関してはあまり論じられていない。とはいっても、中国軍は大陸間弾道ミサイルを用いずとも、現代版真珠湾攻撃を敢行する能力を有しているのである。
昨今、中国との軍事衝突の可能性が空想ではなくなりつつある米軍内外では、極めて少数の声にとどまって入るものの、中国軍によるハワイや西海岸に対する接近攻撃を警戒せよ、との声が上がり始めている。
【警戒すべき攻撃方法1:無人機攻撃】
中国軍による現代版真珠湾攻撃で最も可能性が高い方法は、ウクライナ戦争で効果が実証された無人航空機(UAV)による攻撃である。ハワイ近海を航行するコンテナ船の甲板から大量のUAVを発射してハワイの軍事基地や軍事関連施設それに軍艦を攻撃するのだ。
中国は世界最大級の商船隊を擁しており中国船籍の商船だけでも6000籍以上、その他の国の船籍の商船を加えると7000籍は中国船と考えられる。またロシアが石油密輸に使っている影の船団(海運業界標準の西側諸国の保険に加入せず、所有権が不透明で、船名や船籍が頻繁 に変更され、一般的に海事規制の範囲外で運航する船舶でほとんどが老朽船か)に相当するものを中国軍も用いることも考えられる。
中国軍は、このように極めて多数の商船とりわけ広い甲板を持つコンテナ船や大型輸送船やタンカーなどに多数のUAVを搭載して攻撃前にできるだけ多くをハワイ近海やアメリカ西海岸近海域に接近させておくのである。世界中の海で多くの中国商船が航行している現在、何もハワイ近海で数多くの中国商船が航行していても不審に思われることはない。
コンテナ船などの甲板から発射されるUAVは、通常は巡航ミサイルよりも速度は 遅いものの、機種によっては巡航ミサイルよりはるかに安価でり、射程距離も長く(たとえばサンフラワー 200型UAVの最大射程距離は2,000 キロメートル)、一度に複数のUAVを運用することが可能である。
ただし、UAVに装着される弾頭は巡航ミサイルのものよりも小型である。たとえば、中国軍のYJ-18巡航ミサイルの弾頭は最大300 キログラムであるが、サンフラワー200の弾頭は40キログラム以下にすぎない。しかしながら、もしUAVが弾薬庫や燃料施設の近くで爆発した場合や、軍艦のVLS付近で爆発した場合の結果は米側にとって壊滅的なものとなる。
【警戒すべき攻撃方法2:コンテナ船からの巡航ミサイル攻撃】
UAV攻撃と同じく、コンテナ船などの偽装商船を用いた攻撃に、コンテナ船の甲板に積載された貨物コンテナから発射される巡航ミサイルによる攻撃がある。
中国はYJ-18(鷹撃18型巡航ミサイル)を発射するシステムを開発しており、一つのコンテナには少なくとも2発のミサイルが搭載されている模様である。したがって、大型コンテナ船に10,000〜20,000個も積み込まれている20フィートコンテナのうちの100個が、YJ-18発射システムであったならば、200発のYJ-18が斉射されることになる。
コンテナ船による攻撃であるからUAV攻撃同様に米中開戦以前にアメリカ西海岸やハワイ近海域にYJ-18装填コンテナ船を接近させておくことは容易である。また、場合によっては、コンテナ船をロングビーチ港などに入港させておくことすら可能である。

【警戒すべき攻撃方法3:軍艦による自殺的攻撃】
潜水艦や水上戦闘艦でハワイ近海に接近し、対地攻撃用巡航ミサイルや長射程対艦巡航ミサイルによってハワイの海軍基地や航空施設それに軍艦などを攻撃する。
中国海軍攻撃型潜水艦から発射される巡航ミサイルは魚雷発射管から発射されるため最大斉射数6基と限定的であるが093型攻撃原潜には垂直発射システム(VLS)が設置されており、そのVLSには最大12基の巡航ミサイルが装填可能である。

中国海軍の巡洋艦や駆逐艦には多数のミサイルを装填可能なVLSが設置されている。例えば055型ミサイル巡洋艦には112発、052D型防空駆逐艦には64発、装填可能なVLSが設置されている。潜水艦と違って水上戦闘艦の場合は、最新の標的情報を得るために中国自身が運用する衛星ネットワークにアクセスできるという利点がある。
ただし、ハワイ攻撃を敢行した中国海軍巡洋艦や駆逐艦はミサイル発射後、直ちに捕捉追跡されて、おそらく即座に沈没させられるだろう。中国側もこのことは承知しているが、ミサイル攻撃の代償として自らの軍艦の損失を受け入れられると考えるならば、中国軍は攻撃を躊躇しないであろう。かつて日本軍は真珠湾攻撃において甚大な損害を覚悟していたのである。
【最大の危険】
中国はハワイの米軍基地を標的として接近攻撃する明確な能力を有している。(上記の攻撃方法は、同時にすべてを用いることは十二分に考えられ得る。)また、米国本土西海岸の米軍基地を弾道ミサイルを用いずに破壊する可能性かも高い。したがって米軍は、少なくとも米中開戦当初は、太平洋には確実かつ安全な後方地域が存在しない可能性があるという厳しい事実に向き合わなければならないことになる。
上記のような中国軍の攻撃が現実のものとなった場合には、その影響は甚大なものとなることは必至である。そのため中国軍の接近攻撃に備えるため、日本や韓国やグアムなどの前方展開基地だけでなく、ハワイおよび西海岸のすべての米軍基地や軍事関連施設は、UAV攻撃対策を含む統合防空ミサイル防衛システムを備えることが不可欠でかある。これらのシステムは、平時であっても危機発生時に迅速に発動できる即戦勢を整えておく必要があることはいうまでもない。ただし、防衛を必要とする基地や軍事関連施設の数を考えると、適切な防衛システムを構築するには想像を絶するほどに莫大な費用がかかることは避けられず、軍事予算が既に逼迫している現状において、甚だ心もとない状況と言えよう。
1941 年の日本海軍による真珠湾奇襲攻撃以前に、 アメリカ戦闘艦隊司令官ジェームズ・リチャードソン海軍大将とハワイの防衛を担当していたチャールズ・D・ヘロン陸軍中将は、日本海軍空母機動部隊によるハワイ攻撃を的確に予測し、軍首脳そしてルーズベルト大統領に繰り返し警告していた。しかしながら、日本軍を見くびっていたアメリカ軍首脳や大統領たちは、執拗に“危機を煽り立てる”リチャードソン提督とヘロン将軍を解任してしまった。
また、リチャードソン司令官の指示を受けて、ハワイ空軍司令官のF・L・マーティン陸軍航空部隊少将と、ハワイ海軍基地防衛航空軍司令官P・N・L・ベリンジャー少将は、日本軍による真珠湾への奇襲攻撃の危険性に関するレポートを作成したが、リチャードソン大将とヘロン中将の後任のハズバンド・ キンメル海軍提督のと陸軍ウォルター・ショート将軍の)は、この警告を無視しました。そして真珠湾攻撃を目にすることになったのだ。
最も警戒すべきは、敵を見くびり、起こってほしくない事象を「起こらない」と考え、大変な努力を要するためやりたくない仕事を「現実離れしたことを公言するな」「そんなことは起きはしない」と葬り去ってしまうことである。このような歴史は、古今東西繰り返され続けている。、近い将来のアメリカでは、どのような経緯となるであろうか?