トランプの「偉大なアメリカ造船能力の復活」は打ち上げ花火に終わるのか?

「偉大なアメリカの再興」を掲げるトランプ大統領は、同盟諸国を含む180ヶ国以上の国々に対して“相互関税”を課すことによって通商分野での「偉大なアメリカの再興」を企てている。

アメリカにとって通商以上に重要な軍事分野でにおいて「偉大なアメリカの再興」を果たすには、第一次政権時と同じく「偉大なアメリカ海軍の再建」を強力に推し進める必要がある。

第一次政権時の「偉大なアメリカ海軍の再建」は、アメリカ海軍にとって最大の脅威である中国海軍に対抗できるだけの軍艦数の目標を定め、この目標を達成することは政府、連邦議会、海軍の義務であることを法定した。

しかし、いくらトランプ政権が法定したとはいっても、バイデン政権下では海軍力の増強が図られることはなく、海軍内にDEIの風潮を持ち込んだり、海軍軍人のトップである海軍作戦部長に歴史上初めて女性提督が就任した、といった程度の変化が見られただけであった。

一方中国海軍はバイデン政権の期間にも質量ともに増強を続け、主要戦闘艦の数ではアメリカ海軍を完全に抜き去った。未だにアメリカ海軍は空母保有数と核弾道ミサイル搭載戦略弦知りぃく潜水艦保有数では中国海軍に追いつかれていないものの、世界中が戦場のアメリカ海軍と東アジア海域が主戦場である中国海軍との性格の差を考えると、また次に述べるように両国の造船能力の開きを考えると、東アジア海域における米中海軍バランスは中国優勢になっていると考えざるを得ない。

造船能力の開きというのは、筆者周辺のアメリカ海軍関係者たちがすでに10年以上も前から警鐘を鳴らし続けてきた問題で、アメリカの軍艦建造ペースが中国の四分の一以下になっているだけでなく、軍艦のメンテナンスや修理の遅延も目に余る状態になっているというものである。アメリカ海軍関係造船施設で、唯一メンテナンスの遅延が生じていないのは横須賀(日本企業が請け負っている)だけという状態だ。

メンテナンスが間に合わず錆だらけの米海軍輸送艦(写真:米海軍)

ただし、軍艦の建造や修理そしてメンテナンスが滞っている原因の根は深く、アメリカの造船能力そのものが壊滅的状態に陥っているため、とても中国のようにスピーディーにかつ大量に新鋭軍艦を生み出すことができないのである。

昨今ようやく連邦議会でも、このようなアメリカ造船能力の惨状に注目しだしたため、アメリカ海軍力の弱体化の最大の原因は造船能力の低下にあるという認識が高まってきた。そのため、第二次トランプ政権は「偉大なアメリカ海軍の再建」の大前提として「偉大なアメリカ造船能力の復活」を標語に掲げて、アメリカ造船業界を補助金支出や税金優遇策などによって再生させようという政策をスタートとさせた。

ただし、トランプ政権によるアメリカ海軍そしてアメリカ造船能力の再興という目標は当然のものであり極めて歓迎すべきであり強く支持するとしている海軍戦略専門家たちの間にも、現実的に200倍以上もの造船能力の差をつけられてしまっているアメリカの現状を直視した場合、「アメリカ造船能力の復活」が極めて厳しい道のりであるとの危惧は大きい

中国の船舶産出量(総トン数)は世界の53%以上であり、第2位の韓国と第3位の日本を含む全ての国の算出量を合わせたよりも大きい。ちなみにアメリカの産出量は世界の僅か0.1%である。(図版作成:CSIS  Matthew P. FunaioleBrian Hart, and Aidan Powers-Riggs Published March 25, 2025)

老朽化してしまった造船施設や、決定的に不足している熟練造船関係技術者たちの補充といった造船業界内部の問題に加えて、造船に欠かせない鉄鋼の確保もトランプ政権自身が発動した高額関税の影響で不足してしまうのは目に見えている。それに加えて世界各国に対して関税をかけまくることにより造船に必要な各種部品も高額になったり品薄になることは避けられない。

したがって、トランプ政権は「偉大なアメリカ造船能力の復活」そして「偉大なアメリカ海軍の再興」という派手な目標を掲げて入るものの、論理的に考えると必ずしも造船能力そして海軍力を強化する政策を打ち出してはいないため、表看板に掲げている標語は見掛け倒しの強がりに過ぎないと中国海軍に嘲笑われる結果になりかねないというおそれは十二分にあると考えられる。

    “征西府” 北村淳 Ph.D.

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