アメリカのトランプ政権は、NATO諸国を始めとする同盟国や軍事的保護国に対してそれぞれの国防費を大幅に増額するよう強い圧力をかけ始める。
これは、アメリカ自身の防衛努力だけでは、アメリカの覇権維持にとって最大の軍事的障害となってしまった中国海洋軍事力と優勢的に対峙することが当面の期間は不可能となっているため、同盟国や軍事的保護国に国防努力を強化させて、少しでもアメリカ自身の負担を軽減するとともに、中国牽制に投入できる戦力を同盟国や友好国からも動員することによって、トランプ大統領が目指している「偉大なアメリカ海軍が再興」するまでの急場を凌ごうという、アメリカの覇権維持に必要な外交圧力である。
トランプ大統領は大統領選挙期間中に、米中対決の最前線となる台湾に対して国防予算をGDPの10%にまで引き上げるように求めていた。そのため、トランプ政権による一連の国防費値上げ圧力が開始されると、選挙公約どおりにカナダやメキシコに対して25%の関税を貸したのと同じく、アメリカによる国防予算引き上げ圧力が台湾政府に対して加えられる可能性が極めて高い。
台湾政府は2025年度国防費としてGDPの2.45%に相当する6470億台湾ドルを計上していたが、野党が支配する立法院(台湾の国会)によってその一部が削減または凍結された。頼清徳総統は国防費をGDPの3%以上に引き上げる特別予算を提案することを約束しているが、これも立法院の承認が必要である。
このような状況下で卓榮泰首相は立法院において、台湾政府の2025年GDP予測値26兆8800億台湾ドルから計算すると、その10%は2兆6800億台湾ドルになり、現在の中央政府の予算規模を考えると、国防費に2兆台湾ドル以上を充てることは不可能である」と、台湾政府の態度を明確に表明した。そして、防衛予算は国の財政能力と台湾自身の軍事的必要性に基づいて決定されると付け加えた。
台湾政府はトランプ政権に先んじて国防費大増額要求を牽制する姿勢を打ち出したのであるが、台湾はじめ軍事的保護国が国防予算を飛躍的に増額することはアメリカ自身の国益と覇権を維持するたには欠かせない以上、台湾の事情とは無関係に大幅な国防予算増額を突きつけるであろう。それとともに、アメリカ軍事力に縋っている日本やフィリピンに対しても国防費の大幅な増額を要求することは必至だ。
そのような要求をなすにあたってアメリカは、「中国の台湾侵攻を食い止める」「中国による尖閣占領を阻止する」「南沙諸島でのフィリピン主権を保護する」といった具合に、中国の軍事攻撃をアメリカが撃退してやる代償として、そのような保護を期待する国々は自らの国防費を大幅に増やすべきである、との論理を振りかざすことになろう。
しかしながら、そのような論理はまやかしであり、あくまでもアメリカが日本海軍を壊滅させて以来長らく握ってきた東アジアでの軍事的覇権にとって脅威となってしまった中国海洋軍事力を叩き潰ぶしアメリカの覇権・国益を維持するためには、実際のところ台湾国民、日本国民、フィリピン国民がどのような惨禍に見舞われようと感知しないのである。ベトナムやアフガニスタンやウクライナの実例を見ればアメリカ・ファーストの本質は明らかだ。
中国共産党政府との特殊な政治的関係にある台湾政府は、日本やフィリピンと違って現実的に中国の軍事的脅威に直面しているにも関わらず、アメリカのまやかしにはそう容易く乗らない姿勢を示したわけであるが、かつてアメリカの植民地であったためにアメリカを頼り切る信条を持つ人々が少なくないフィリピンはもとより、アメリカに占領統治されて以来軍事的属国状態が定着してしまい、アメリカに軍事的にすがりつくことに疑問を感じなくなってしまっている日本では、アメリカのまやかしに迎合しそうである。
軍事力はもとより経済力や技術力でも日本を追い越してしまった中国に対する妬みや嫉みあるいは僻みから感情的に、すなわち国益維持のための深遠な分析を経ずして、アメリカの尻馬に乗って中国を敵視し中国軍事力を脅威とするアメリカの意向に従った形で防衛予算をなし崩しに増額し続け軍備増強を推し進めていくのであるならば、アメリカの覇権維持のために有用な軍事力を日本が保持し、弾除けとして投入させられてしまう結果が待っている。
日本はアメリカの覇権維持のために必要な軍事力を増強する余裕など全く持ち合わせていない。日本自身で、中国の軍事力や戦略が日本にとりどのような脅威なのか、ロシアの軍事力や戦略が日本にとりどのような脅威なのか、……………、そしてアメリカの軍事力や戦略が日本ニトリどのような脅威なのか、日本自身で分析判断したうえで、真の国益を維持するために必要な限度での国防費を確保し軍事力を整備する必要がある。