トランプ大統領は自身のTruthSocialに「そこそこ成功したコメディアン、ヴォロディミル・ゼレンスキーが、勝てない戦争、始める必要のなかった戦争に突入するために、3500億ドルを費やすようアメリカ合衆国を説得したのだ。ゼレンスキーは選挙を経ていない独裁者だ。早急に行動を起こさなければ、彼は国を失うことになるだろう」と書き込んだ。
ウクライナの現行憲法は戒厳令下での総選挙を禁じており2022年2月にロシアが本格的にウクライナに侵攻を開始した際に発令された戒厳令は現在まで続いている。そのため、2024年3月に大統領選挙が行われ5月には任期が切れるはずであったゼレンスキー大統領は、選挙を行うことなく現在まで大統領職にとどまっているのである。
この点を問題にしてロシアのプーチン大統領は、ゼレンスキー大統領は正当に選ばれたわけではなく和平協定に署名する権限を有さないとしてゼレンスキーとの交渉は拒絶している。
ゼレンスキーを独裁者と酷評したトランプ大統領は、アメリカを始めとする西側諸国による武器輸出と関連させて「ゼレンスキーはおそらく『gravy train』に乗り続けたいのだろう」と非難している。そして「私はウクライナを愛しているが、ゼレンスキーはひどい仕事をした。彼の国は崩壊し、何百万人もの人々が不必要に亡くなってしまった」と書き込んだ。
(gravy trainというのは、ある個人またはグループが、ほとんどまたは全く努力せずに過剰で不当な金銭または利益を受け取る立場にあることを意味する俗語表現。)
トランプ大統領の声明に対してゼレンスキー大統領はもちろんのこと、西側諸国からも疑義が呈されている。たとえば、英国のスターマー首相は、ウクライナの民主的に選出された指導者としてのゼレンスキー大統領への支持を表明した。そして、スターマー首相はゼレンスキー大統領に対して、英国が第二次世界大戦中にしたように「戦時中に選挙を中止するのは極めて賢明だ」と語ったという。それに対して、ゼレンスキー大統領はヨーロッパの防衛と安全保障の強化における英国の役割はウクライナにとって非常に重要だと述べた。
同様に、ドイツのショルツ首相はトランプ大統領がゼレンスキー大統領を独裁者呼ばわりして非難したことを「間違っており危険」と呼び、バーボック外相は「馬鹿げている。現実世界を見れば、ヨーロッパで誰が独裁政権の環境で暮らしていかなければならないかが分かる。ロシアの人々、ベラルーシの人々だ」と述べた。しかしながら直後の国政選挙でシュルツ政権は大敗北を喫し、保守・右翼連動政権が誕生する見込みとなり、トランプ大統領はドイツの選挙結果に賛辞を送った。
米国連邦議会でも、民主党そして一部の共和党議員からはトランプ大統領の“根拠なきゼレンスキー酷評”にたいして猛反発が起きており、ディック・ダービン上院少数党院内総務は「(トランプ大統領の発言は)言語道断だ。大統領がこのようなことをし、奔放に脱線し、明らかに虚偽であることを言うのは、ユーモアではなく言語道断だ」と批判して、トランプ大統領の発言は国際舞台でのアメリカの地位を危うくすると述べた。
トランプ大統領への批判に対して、JD・ヴァンス副大統領はトランプ大統領への批判は裏目に出るだろうと警告しており、トランプ政権はゼレンスキー大統領が選挙によって正統性を確保しない限り、独裁者呼ばわりを続ける姿勢である。
そもそもトランプ大統領に限らず国際関係において常にアメリカ至上主義が強固なアメリカが、自国の国益を維持するために、それまで支持していた政権や勢力を手のひらを返したように「独裁者」や「自由主義への脅威」呼ばわりをして切り捨ててしまうことは歴史上しばしば起こっており、トランプ大統領がゼレンスキー大統領を独裁者呼ばわりしたことは何も驚くに値しない。
第二次世界大戦において日本と戦う際には登場首相や天皇陛下を独裁者呼ばわりし、アメリカの国是であった反響イデオロギーを横において真の独裁者であったスターリンと手を結んでも何ら恥じ入るところはなかった。
また、自国の経済的権益を確保するために日本を中国から追い払うために、反共の蒋介石政権に共産党と合作を強いて日本を叩き出すのに成功したが、漁夫の利を得るように毛沢東率いる共産党が中国の支配権を確実なものにしてしまうと、それまで支持していた蔣介石政権を見捨ててしまった。
ベトナムでも、代理戦争を遂行させていた南ベトナムの傀儡政権に勝利の見込みが無くなると、傀儡政権を見捨てて米軍はベトナムから逃亡してしまった。似たように、最近ではアフガニスタンでもアメリカの傀儡政権がタリバンに圧倒されてし舞う情勢となるや、傀儡政権やアメリカに頼っていたアフガニスタン市民を見捨てて米軍全部隊がアフガニスタンから逃亡し不倶戴天の敵であったタリバンが政権を奪取してしまった。
このようなアメリカ至上主義、トランプ大統領の言う「アメリカ・ファースト」の姿勢と政策は、政府の第一の責務が国益の維持であるため、国際関係は武士道精神では切り抜けられない以上何も非難されるべきではない。ただし、アメリカのこのような習性は、異常なほどにアメリカに追従し病理的にアメリカに頼り切っており、アメリカ・ファースト的な外交姿勢を取り続けている日本にとっては時限爆弾のようなものである。
歴史はくりかえすというが、アメリカの他国使い捨ての歴史は確実に繰り返している。日本がアメリカの軍事的属国であることを是正しようとしない日本政府ならびに国会、そして対米追従を良しとする人々は、いつの日かアメリカによって使用価値が低下した日本がゴミのように捨てられることだけは認識しておくべきであろう。