アメリカ軍にとっての悪夢〜中国のMD-19極超音速ドローン

貿易戦争はしばしば現実の戦争の予兆となってきたことは周知の事実である。

アメリカと中国の貿易戦争が本格化している現在、戦争を遂行して国益を伸長することを任務としているアメリカ軍指導者たちがこれまで以上に中国との戦争を現実のものととらえて彼我の戦力状況を冷静に比較すると、アメリカの予想以上に中国が優位に立っている分野が少なくないことを再認識させられており、危機感の表明が相次いでいる。昨今取り上げられている深刻な脅威の一つは極超音速無人航空機である。

MD-19

中国によって開発されたMD-19は極超音速(マッハ5以上が極超音速)で飛翔することができるコンパクトな無人航空機システム(UAV)である。中国の超音速・極超音速UAVに関する情報は貧弱であるため、MD-19に関しての評価は難しい。しかし、すくなくともMD-19は、極超音速UAVにおける重要なマイルストーンであることに疑問の余地はなく、アメリカ国防総省では極めて憂慮している。

TB-001無人航空機から発射されたMD-19

これまでの断片的な情報によると、MD-19はシステムは時速3,800マイルを超える速度で飛行でき、しかも減速、亜音速(マッハ1未満)への移行、標準的な滑走路への水平着陸が可能とされている。

極超音速飛行から亜音速飛行への移行には、高度な飛行制御システム、適応性の高い空気力学、極度の熱的・機械的ストレスに耐える素材が必要である。そのため、MD-19の成功は、中国技術陣がこれらの課題を克服したことを示唆しており、MD-19は工学的に極めて重要な偉業であるということになる。(ただし、信頼性の高い詳細なデータによる評価ではないのであるが。)

世界に冠たる中国の極超音速技術

MD-19を支える技術は中国科学院力学研究所と広東空天科学研究院のプロジェクトによって推進されているが、このプロジェクトに携わる研究者ガオ・フェイによると、MD-19に用いられている制御システムには「生物学的知性」が組み込まれているということである。このよう表現は、自然な意思決定プロセスを模倣する高度な人工知能(AI)を示唆していると考えられる。このような高度なAIが組み込まれていることにより、MD-19は複雑な飛行経路を自律的に航行することができるのである。

中国科学院や広東空天科学研究院に加えて航空宇宙工学における最先端の研究で知られる浙江大学なども中国の極超音速UAVの研究開発に関与している。このように中国では最新兵器の開発には学術、産業、軍事部門間の相乗効果が浮き彫りになってきている。中国共産党政府の多額の投資に支えられたこの主の協力モデルにより、中国は極超音速計画を加速させ、アメリカやロシアやヨーロッパ諸国を技術的に凌駕している。

歴史的にみて、極超音速技術は熾烈な国際競争の領域であったた。アメリカはすでに1960年代にX-15などのプ ログラムで初期の極超音速研究の先駆者となっていた。マッハ6.7に達したX-15はロケット推進と特殊な回収方法を採用していた。近年になってアメリカ空軍はスクラムジェットエンジンX-51Aウェーブライダーのテスト飛行を行っているが、MD-19のような再利用可能な滑走路着陸能力は実現していない。ロシアのキンジハルミサイルとジルコン巡航ミサイルも、再利用可能なMD-19のような汎用性はなく、単発使用の兵器である。

MD-19はアメリカ軍にとっての悪夢

核弾頭の搭載も可能であるが現実的には通常弾頭を搭載するMD-19は、第一列島線周辺海域に接近するアメリカ海軍空母打撃群を撃破し、グアムや沖縄のアメリカ軍前方展開基地を壊滅させる可能性が高い。また、MG-19は台湾海峡や南シナ海のような紛争地域上空でリアルタイムで偵察飛行を行い、中国軍側に重要な情報を提供することができる。

MD-19は、通常の航空機空域と地球低軌道の中間に位置する宇宙空間に近い高度を極超音速で飛行するため、アメリカ海軍のイージスシステムやアメリカ陸軍のパトリオットといった現行のミサイル防衛システムでの迎撃はほぼ不可能だ。

TB-001から発射されたMD-19

しかしながら、MD-19の脅威は戦場にとどまらない。MD-19の開発は、ハイテク分野における中国の国家戦略を浮き彫りにしている。予算超過による計画中断にしばしば直面する米国の極超音速計画とは異なり、中国の極超音速計画は、商業的技術資源、学術研究機関、国営企業や軍機関を統合することで、MD-19のような先進的なシステムをアメリカの何分の一かの低コストで開発し生産することができる。

ようするに、MD-19はじめとする極超音速ドローンを大量生産する可能性を持つ中国は、極超音速兵器の分野においては、アメリカに真の勝利を収めているのが現状と言えよう。現代戦において極めて重要な分野においてアメリカ軍が中国軍の後塵を拝している状況下においてもし米中戦争が勃発すれば、中国の極超音速UAVはアメリカ軍にとって重大な問題となり、おそらくアメリカ本土への脅威とさえなりかねない。

    “征西府” 北村淳 Ph.D.

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