タスマン海での中国海軍実弾演習に込められた北京のメッセージ

2月21日、中国人民解放軍海軍の3隻からなる小さな任務部隊が、タスマン海(オーストラリアとニュージーランドの間に横たわる海域)で5時間弱の実弾演習を行った。軍事演習の大きな枠組みから見れば、この演習は小規模なものだった。しかし、49機の民間航空機に飛行ルートの変更を余儀なくさせた。そのほとんどは、射撃が始まるわずか数時間前に、国際的な警備周波数で出された突然の警告によるものだった。

今回の任務部隊に加わっていた中国海軍フリゲート衡陽(写真:オーストラリア国防軍)

中国海軍任務部隊がもっとタイムリーな通告をしなかったことは、無責任でプロフェッショナルでなかったと言うことができるが、中国海軍の行動は国際法や国連海洋法条約のいかなる条項にも違反していない。

とはいうものの、西側の指導者たちはこの事件から警告を受けるべきだ。中国本国から遠く離れた海域での今回の行動は、中国共産党による最新の海軍メッセージの序章の一つにすぎない。この4年間、習近平は中国海軍を活発に利用してきた。 中国海軍は西太平洋と南西太平洋で日常的に活動し、これらの海域に隣接する国々の防衛と利益に影響を与えることができるようになっている。

中国海軍の能力に対して懐疑的な人々は、北京の意図についてのその解釈を無視するか、否定するだろう。実際、多くの人は懸念する理由はないと見ている。「キャンベラ、オークランド、ワシントンDCは過剰反応し、中国海軍任務部隊がもたらす潜在的脅威を誇張している」と主張する者もいる。実際に、この起動部隊は小規模であり、深刻な脅威となるような行動をとったわけでもなく、別の艦隊がすぐに追随するという証拠もない。

また、中国海軍を警戒するのに反対を唱える反警戒主義者たちは、中国海軍はまだ母港から遠く離れた海域に空母を配備したことがなく、配備できるようになるまで何年もかかるかもしれないと指摘している。

こうした懐疑論者や半警戒主義者たちの中国海軍に対する評価は、海上戦力と戦略において非常に重要な3つの要素を無視している。

第一に、新たな軍艦の建造には3年以上、艦隊の構築や再建には10年以上かかる。米国をはじめとする西側の主要国が過去25年間、海洋戦力を軽視あるいは無視したり、配分を誤ったりしている間に、中華人民共和国は歴史的に前例のないペースで艦隊の建造と近代化を進めてきた。 中国海軍の最新の水上軍艦は、アメリカ海軍の水上軍艦と同等の技術水準にあり、年間建造数は4倍に達している。アメリカの原子力潜水艦と航空母艦は依然として優れているものの、中国海軍は追いつき追い越すペースで建造している。

第二に、上記のような評価は、北京の長期的な意図、任務部隊の兵器群の戦略的意義、国際航空路の突然の転換から導き出されるべき教訓を見逃している。例えば、今回の任務部隊に加わっていた055型誘導ミサイル巡洋艦「遵義」(注:満載排水量13000トンのこの軍艦を日本では南昌級駆逐艦と呼称しているが米海軍ならびにNATOでは055型巡洋艦と呼称している)は、射程1200nmの核搭載可能なCL-10陸上攻撃巡航ミサイルと射程150nmのHHQ-9地対空ミサイル(SAM)システムの両方を搭載している。北京はこれらの兵器システムに対していかなる脅しも言及もしなかったが、そうする必要はなかった。この地域の指導者たちは、これらの兵器と、それが使用された場合にどのような被害をもたらすかをよく知っていたはずだからだ。もちろん、その攻撃能力は今回の任務部隊の作戦の最も重要な側面ではない。

第三に、海軍には平時における外交的、政治経済的役割がある。これは、数量が重要な役割の一つである。 ショー・ザ・フラッグ・ミッションと呼ばれ、軍艦がある地域を通過し、外国に寄港することは、その地域に対する自国の関心を示すものである。 何人かの海軍指導者や国家戦略家が長い間述べてきたように、国益を示す上で海軍のプレゼンスに代わるものはない。

最後に、軍艦の寄港は乗組員の観光活動や船舶による食料、燃料、その他消耗品の購入を通じて、地域経済に大きなキャッシュフローを注入する。このような経済貢献と、乗組員が行う市民プロジェクトは、多くの好意を得ることができる。

以上のように考えると、中国海軍が現在進めている南西太平洋への展開には、ソロモン諸島への寄港と、おそらくフィジーへの寄港が含まれることが予想される。しかもこれらの海域は、過去30年間に米海軍のプレゼンスが大幅に低下した海域である。興味深いことに、中国海軍は現在、南西太平洋で米海軍よりもはるかに多くの軍艦を配備をできる。北京は今後数年間、この優位性を利用するだろう。

西太平洋の他の地域では、中国海軍が台湾周辺と黄海で実弾演習を行っている。 前例がないわけではないが、こうした演習の数が増えていることは注目に値する。中国海軍は、2018年以前よりも頻繁かつ大規模な訓練を行っているだけでなく、地理的範囲も拡大している。オーストラリアとニュージーランドは現在、中国海軍が自国に近いと考える海域で活動し、演習しているのを目にしている。

日本も同様だ。 昨年、中国海軍は宮古海峡の南東で演習を行った。台北へのアクセスを支配する海域に位置するこの演習は、中国が台北の世界的な空と海の交通へのアクセスを遮断する可能性があることを台湾に警告するためのものだと多くの人が確信した。中国の学者が、琉球諸島は歴史的に中国の一部であったという虚偽の主張を繰り返したわずか数カ月後のことであったが、この演習は東京へのメッセージでもあったのかもしれない。 共産党幹部は2005年に北京大学の学者の主張を否定したが、2019年に再浮上したときには何も言わなかった。 昨年の宮古海峡付近での演習には、日本へのメッセージという副次的な役割があった可能性がある。北京が適切な状況下で奪取を検討する可能性があるのは、尖閣諸島だけではないということだ。もしそうなら、中国海軍はこの海域でさらに演習を行うだろう。

政治戦と戦略的示威行動は、中国の軍事活動における重要な構成要素である。旧ソビエト連邦とは異なり、中華人民共和国は、平時においても危機においても、軍事力は指揮的な役割ではなく支援的な役割を果たしながら、長期戦に臨んでいる。

北京は長い間、自国領海での西側の海軍活動を批判してきたが、アメリカの同盟国に対しても、その気になれば中国も西側と同じことができるということを示し始めている。海軍用語で言えば、北京はオーストラリアとフィリピンの防衛計画の弓を政治的に撃ち抜いたのだ。

タスマン海における今日の任務部隊は確かに非常に小さいが、10年後にはそうではないかもしれない。今回の実弾演習は、南西太平洋やその他の海域でこれから起こる物語の序章にすぎない。この4年間北京が中国海軍を使って発信してきたメッセージの最新版に過ぎない。西側指導者の誰かが中国の真意を読み鳥、対応策を準備していることを祈ろう。

    アメリカ海軍大佐(退役)カール・O・シュスター

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