アメリカ海軍の対中戦略ベテラン情報将校が語る「中国海軍入門」[上]

本コラムの著者、カール・O・シュスター大佐(アメリカ海軍、退役)は、アメリカ海軍太平洋艦隊司令部ならびにアメリカ太平洋軍司令部などで中国海軍と対峙し、太平洋軍統合情報センター作戦部長を務めた後退役し、アメリカ海軍大学校と提携しているハワイパシフィック大学軍事外交プログラムで教鞭を取っていた。長らく中国海軍戦略の分析に携わってきたため、中国海軍に関する知識や分析には海軍無以外で定評があり、BBCやCNNなどでもコメンテーターを務めている。本コラムはシュスター大佐がアメリカ海軍将校たちや大学院生たちに語っている内容をコンパクトにまとめて征西府に寄稿したものを翻訳したものであり、内容に関して征西府は一切手を入れていない。また、今回から2回にわたって掲載する本コラムの内容はシュスター大佐の見解であり米海軍や米軍そして征西府の見解というわけではない。

中国海軍の役割、優先事項、そして現状に至った経緯(上)

中国人民解放軍海軍(中国海軍)は、1980年代後半には時代遅れの古臭い沿岸防衛部隊であったが、2024年までに近代的な外洋艦隊に成長し、世界最大の艦隊を保有するに至った。 これは驚異的な成果であり、外国の広範な経済的・技術的援助によって達成された側面は否定できないものの、中国地震が集中的に、忍耐強く、合理的な拡張・近代化プログラムを実施することによって達成されたことは否定できない。

中国の軍と政治の指導者たちは、経済、産業基盤、海洋政策、科学技術インフラの拡大と調和させながら、中国海軍の改良のバランスをとった。軍事費、特に海軍の支出が国の経済投資と成長を妨げないよう配慮された。 外国企業には、艦隊のセンサーや防空システムに段階的な改良を加えるよう要請し、中国海軍は代表団を西側諸国に派遣して、そのドクトリン、作戦上の教訓、戦術を学び、研究させた。 中国海軍の教育機関はカリキュラムを変更し、中国の戦略思想家や毛沢東の思想に西洋の海軍思想を融合させた。

今日の中国海軍は、その非常に包括的で忍耐強いプログラムの最終段階を表している。中国国外では、中国海軍の軍事力と作戦の拡大に大きな注目が集まっているが、中国の軍事戦略と政治戦争における中国海軍のドクトリンと役割については、これほど注目されていない。

中国海軍は中国の外交・安全保障関係を育み、支援することを課せられており、港湾訪問、現場での軍事交流、陸上での市民プロジェクトの支援、ホスト国やパートナー国の海軍との合同演習の実施などを通じて、目に見える形での外交的役割を達成している。

しかし、中国海軍は中国共産党の政治戦争キャンペーンにおいてあまり知られていない貢献をしており、敵対国の安全保障に関する部隊、構造、パートナーシップなどに対する信頼を損なう活動をしている。例えば、中国海軍は、東シナ海や南シナ海などの係争海域で、中国の海洋法戦のバックアップの役割を果たしている。 北京の準軍事組織である人民武装海上民兵(PAFMM)は、周辺諸国の漁民や沿岸警備隊を威嚇しながら、中国の主張を率先して押し通している。 商業漁船を装っているにもかかわらず、PAFMMの強化された船体と高圧水鉄砲は、より軽量な周辺諸国の漁船にダメージを与え、過去にはベトナム漁船に衝突して沈没させ、乗組員を溺死させたこともある。PAFMMの犯罪行為は戦争行為には程遠く、その表向きの商業的地位は北京にもっともらしい否認の余地を与えているが、中国海軍の部隊が近くに存在することほど、その嘘をしっかりと暴くものはない。中国の沿岸警備隊の大型船艇は常に近くにいて、他国の沿岸警備隊が妨害しようとすればすぐに介入できる。 通常、中国海軍の部隊は水平線のすぐ向こうに控えていて、万一の場合に備えている。

メッセージは明確だ。 中国が選択すれば、脅威を受けた国のパートナーたちが支援に到着する前に、中国は武力によって状況を解決することができる。 そこに、東アジアにおける中国の政治戦争に対する中国海軍の最も重要な貢献がある。中国海軍は軍事的優位を享受しており、中国海軍が十分なパワーとプレゼンスを持てば、他の場所でもそうする可能性がある。 中国の伝統的な戦略思想家たち(孫子が最もよく知られている)は、紛争を起こす前に敵をパートナーや同盟国から引き離すことを提唱してきた。 地域諸国の同盟国やパートナーに対する信頼を損なうことで、北京はその国に中国の目標を受け入れさせることを望んでいる。

このように、中国の軍事近代化は、国家安全保障と同様に戦略的な地政学的目標でもあった。1990年代の中国の軍備調達活動に反映されているように、まず優先されたのは、国の防空と海上防衛を向上させることであった。 より先進的な戦闘機、防空ミサイルシステム、センサー、船舶、潜水艦の取得は、すべてその優先順位を反映したものだった。当初の目標は、中国が「近海」と呼ぶ海域、つまり黄海、東シナ海、南シナ海を、支配はしないまでもコントロールする基盤を提供することだった。 欧米のアナリストは、これらの海域を仕切る日本からフィリピンの島々を経てインドネシア群島とニューギニアに至る島嶼線を「第一列島線」と呼んでいる。

中国が「遠洋」と呼んでいるのは第一列島線の外側の東と西の海域のことである。現在、「遠洋」での活動は、中国のプレゼンスを提供し、中国の権益を守り、中国の外交的・政治的戦争目的を促進するためのものである。 中国海軍の艦隊兵站部隊の拡大や、世界の港湾インフラと運営における中国の地位の高まりが示すように、世界の海洋における中国のプレゼンスは2030年代に加速し、そのペースは台湾の地位によって決まるだろう。

台湾が中国に統合されてしまえば、中国が中部太平洋に航空・海上戦力を投射する上で最大の障壁が取り除かれることになる。それはまた、西太平洋におけるアメリカの戦略的地位の喪失を意味し、多くの中国周辺諸国は少なくとも中国との融和を模索せざるを得なくなる。そうなれば、中国は西方極洋、インド洋、そしてその先へのアクセスを開くことになるかもしれない。台湾の分離された地位は、北京の東方極洋へのアクセスを制限する障壁を直接的に支え、西方極洋での活動を制約する地政学的要因に寄与している。中国の軍事的近代化計画と計画の背後には、そのことと、中国共産党の長年にわたる、中国の失われた領土をすべて統一するという政治的必要性がある。

(続く)

    アメリカ海軍大佐(退役)カール・O・シュスター

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