中国海軍空母3隻による同時行動の持つ戦略的意味

中国人民解放軍海軍(以下、中国海軍)は5月下旬から6月上旬にかけて現在3隻保有している航空母艦すべてを海上に展開させた。このような中国海軍の動きはアメリカや日本に対して明確な戦略的メッセージを突きつけている。

本コラムの著者、カール・O・シュスター大佐(アメリカ海軍、退役)は、アメリカ海軍太平洋艦隊司令部ならびにアメリカ太平洋軍司令部などで中国海軍と対峙し、太平洋軍統合情報センター作戦部長を務めた後退役し、アメリカ海軍大学校と提携しているハワイパシフィック大学軍事外交プログラムで教鞭を取っていた。長らく中国海軍戦略の分析に携わってきたため、中国海軍に関する知識や分析には海軍無以外で定評があり、BBCやCNNなどでもコメンテーターを務めている。本コラムはシュスター大佐がアメリカ海軍将校たちや大学院生たちに語っている内容をコンパクトにまとめて征西府に寄稿したものを翻訳したものであり、内容に関して征西府は一切手を入れていない。また、本コラムの内容はシュスター大佐の見解であり米海軍や米軍そして征西府の見解というわけではない。

中国海軍の空母3隻のうち就役中の2隻、「遼寧」(CV-16)と「山東」(CV-17)は、それぞれ台湾周辺海域と南シナ海で作戦行動を行っている。一方、最新鋭空母「福建」(CV-18)は、8回目の5日間にわたった海上試験航海を終えた。今回の海上試験航海では、積載した航空機をの発艦・回収作業が実施された。これは、同艦が運用可能な状態に近づいていることを示唆している。さらに重要なのは、この試験航海の様子と他の2隻野空母の展開は、西太平洋におけるアメリカのシーパワーに対する中国の脅威の高まりを示す新たな一歩である。

3隻の中国空母は共同で作戦行動を行ってはいないが、同時の行動はアメリカ、日本そしてアジア全体に重要な戦略的メッセージを送ることになる。例えば、台湾を周回する前に、「遼寧」は日本の尖閣諸島付近で飛行作戦を実施したが、これは日本の海上保安庁が尖閣諸島の一つで中国船が中国国旗を掲揚しようとしたのを阻止した数日後のことである。中国沿岸警備隊と海上民兵船と共に展開している「山東」空母打撃群は、西フィリピン海でフィリピン沿岸警備隊の補給任務を阻止した。

中国の2隻のスキージャンプ型空母(「遼寧」「山東」)はアメリカ海軍空母のような戦力投射能力を欠いているが、中国近海では中国の航空戦力と対艦弾道ミサイル(ASBM)戦力の支援を受けている。また、より能力の高い3隻目の空母「福建」は完全なる作戦行動可能状態に近づいており、4隻目のはるかに大型の空母も建造中である。中国海軍は着実に戦力を増大させており、中国はそれを利用して領土回復主義的な海洋領有権主張を推し進めている。

中国海軍3隻目の空母である「福建」は、中国空母としては初となるカタパルト支援離陸・拘束回収(CATOBAR)対応艦である。3基の電磁航空機発射システム(EMALS)を搭載し、スキージャンプ型方式の「遼寧」と「山東」よりも多くの戦闘機や攻撃機を発艦させ、より幅広い機種の航空機を運用することが可能である。戦闘機を満載にすることで、空母航空団の攻撃力は向上する。さらに、空中早期警戒管制システム(AEW-CS)と空中給油機を搭載することで、空母の戦闘空間管理能力と航空団の攻撃範囲がそれぞれ向上することになる。

中国海軍新鋭空母「福建」credit: Ding Ziyu China Ministry of National Defense

EMALSは従来の蒸気カタパルトに比べて運用・整備に必要な人員が少なく、加速が均一なため航空機の機体と着陸装置への負担が軽減される。また、発艦サイクルの高速化も実現するが、EMALSには放熱や電力需要といった大きな技術的課題が伴う。中国海軍当局者は、アメリカ海軍がUSSジェラルド・R・フォード(CVN-78)でこれらの問題をどのように克服したかを研究し、この技術を習得したもようである。

昨年5月以来8回行われた「福建」の海上試験では、航空管制、操縦室運用、そしてもちろん航空機の発艦・着陸能力に関わる空母のシステム、人員、手順の試験と評価に重点が置かれている。8回目の海上試験が成功した後には、30日間のシステムチェックが実施される。引き続き「福建」の「卒業海上試験」は8月に実施される予定で、おそらく台湾周辺および台湾沖で行われる東部戦区の大規模演習と同時期に実施されるであろう。同艦は10月までに正式に艦隊に加わる予定だ。その後、同空母の最初の30日間の展開と整備訓練は11月から12月にかけて行われ、おそらく南シナ海の海南島付近で行われると予想される。

中国海軍の次期空母は、「福建」よりも大型の「004型」で、今年(2025年)後半に進水予定だ。中国の空母プログラムは、新造艦そのものだけでなく新型航空機の投入によって急速に拡大・改良されている。現在、アメリカ海軍は中国海軍より強力な海上航空戦力と潜水艦戦力を保有しているが、中国海軍とは異なり、世界的な関与の必要性により、その戦力は日々分散している。一方中国海軍は作戦を中国周辺海域に集中させている。さらに、その艦隊と支援部隊は急速に増強されている。

上記のような中国海軍空母戦力の動向は、中国の海洋進出への意図を示している。中国海軍は、中国の航空戦力、サイバー戦力、ロケット軍のミサイル戦力、航空宇宙戦力の支援を受け、西太平洋におけるアメリカ海軍がこれまで手にしてきた海上支配に、挑戦し打倒することを願っている。アメリカ政府と日本政府がこの意味合いを明確に認識し、航空戦力と海軍力の強化により緊密に協力することを期待したい。両国は、単独で行うよりもはるかに多くのことを達成できるはずだ。

    アメリカ海軍大佐(退役)カール・O・シュスター

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